企業は社会問題に沈黙を守るべきか
企業アクティビズムという言葉を皆さんは知っているでしょうか。
企業が、自社の営利活動とは全く異なる文脈で、政治的・社会的事項について積極的な発信や行動を行うことです。米国でのBlack Lives Matter運動(黒人の人権運動:BLM)に対し、ネットフリックスなどの会社が積極的な姿勢を示したことで注目されるようになりました。
この企業アクティビズムは、果たしてその企業の事業活動にとってプラスになっているのか、ネガティブになっているのか?企業アクティビズムは必ずしも事業活動へのメリットを考えて行われるものではないと言えども、それが会社経営にどういう影響を及ぼしているのかは分析される必要があります。
米国テンプル大のQin先生たちの論文「When corporate silence is costly(沈黙がコストになるとき)」では、企業アクティビズムに積極的であった会社とそうでない会社とで、どちらにどれだけ事業メリットがあったのかを分析しています。
BLM運動に参加「しなかった」企業には静かなダメージがあった
この調査では、米国で活動するファッション関連企業が、Black Lives Matter運動の大型イベントに参加したか否かで、その後どのような違いが生まれたのかを分析しました。
その結果、重要な社会問題について企業が沈黙を続けることには、大きなリスクがあることが分かりました。大型イベントに参加しなかった企業は、SNSフォロワー数の増加が翌月に33%鈍化し、投稿への「いいね!」も12%減少しました。
この発見事実は、慎重に吟味する必要があります。すなわち、社会問題に対して積極的に発信したからといって、消費者たちはそれを熱烈に支持する行動はとってくれない一方で、社会問題に沈黙する企業に対して静かな失望を感じている可能性が示されたからです。
この調査はあくまでBlack Lives Matter運動におけるファッション業界企業だけを対象にしたものですから、どれくらい発見事実が一般性をもつとも分かりません。
しかし、「消費者は静かに失望している可能性がある」ことが明らかになったことは、大きな意味を持ちます。あなたの会社が問題に対して静観を決め込んでいること、あるいは本当に重要な問題を見逃していることが、静かに、会社のファン離れを引き起こしている可能性があるのです。
「不作為のコスト」という重要な考え方
Qin先生たちはここで「不作為のコスト」という概念を提唱します。自分たちの問題ではないと判断したか、あるいは本当に見逃したか……。作為的に行動を起こすことではなく、不作為に行動をしなかったことが、企業経営にとって静かなダメージになる可能性になるのか。それを考慮すれば、今後、企業は社会の大切な問題に対して、積極的に関わっていくことが求められます。
企業も社会問題に関与しないといけないなんて、辛い時代、大変な時代になったものだ……という考え方は適切ではありません。むしろ、社会を構成する重要な、というよりも最大の存在であるにも関わらず、企業だけがその社会の健全な発展に対して無関心でいられたことのほうがおかしい、というのが近年の経営学の考え方です。ときに何千何万もの人々に、社会問題への沈黙を強いるほうが、社会の構成員のあり方として不適切であろう、という考え方が広がってきているのです。
この研究が示しているのは、社会問題に建設的に関与することが会社の存続性にとって望ましい判断なのだということでした。BLMという特定の事象からの発見とばかりに捨て置かず、これからの時代の企業経営を考えるきっかけとしてもらうのが、本研究の意義でしょう。
記事原案 印部有紀
