ハードウェア、ソフトウェア、ハートウェア
脱炭素化を、どのように進めるべきか。この点について、「ハードウェア、ソフトウェア、ハートウェア」の3点の整備が軸であるという考え方をもとに、日本の現状を整理しているのが、大阪公立大の中瀬哲史先生の論文「脱炭素プラス脱原発の社会に向けたエネルギー分野における挑戦と模索」です。
脱炭素化は、今や地球環境維持において避けて通れない重要な考え方となっています。そうした認識の遅れや、東日本大震災やコロナといった自然災害がその気運に水を差すかたちとなり、日本は脱炭素で後発になってしまっていることを自覚することが大切だと、筆者はまず述べます。
この遅れを取り戻すうえでは、従来のR&Dではなく、R&D&D(Research & Development, & Deploy:研究、開発、実装)という発想が大切になります。すなわち、従来であれば新しい技術は研究開発するまでで良かったわけですが、脱炭素のための技術—風力発電などは、それを社会に成功裏に実装するまでに困難と責任とが生じるというのです。
この実装における鍵概念が「ハードウェア」「ソフトウェア」「ハートウェア」です。ハードウェアとは実装される設備を指し、ソフトウェアとはそれを運用する人とシステムの体制を指します。そして、ハートウェアとは、脱炭素化の意義や、その設備・システムの必要性認識、社会問題の理解といった人々の心—考え方の部分を指します。この3つが整ったとき、脱炭素のシステムは成功裏に実装されるのです。
脱炭素の成功事例にみる共通項
長崎県五島市には、大規模な洋上風力発電システムが作られ、現在のところ安定的に運用されています。その背景にはまさしくハートウェアの整備がありました。五島市役所や漁協関係者から賛同を得て、五島市と五島フローティングウィンドパワー合同会社(戸田建設100%子会社)によって商用運転されています。漁業者、事業者、地域住民との間でコンセンサスが図られ、地域再生の象徴として、市民の風車という位置づけになっているからこそ、運用が安定しているのです。
奈良県生駒市も新電力に挑戦している地域です。生駒市では、主婦層やビジネススキルを有する会社退職者(アクティブシニア)の参画意欲が高いという背景がありました。それを核に、多様な主体と連携しながら、市民・事業者・行政の協創で築く低炭素循環型住宅都市を目指し、2017 年にいこま市民パワー株式会社を設立します。出資割合は、生駒市51%、生駒商工会議所24%、TJグループホールディングス12%、一般社団法人市民エネルギー生駒8%、株式会社南都銀行5%と、皆がそこに参画するという形を明確にとっています。
論文ではまた千葉商科大学での取り組みも紹介しています。「RE100%」と名付けられたプロジェクトでは、2014年4月から、学内の野田発電所で発電が開始されました。SDGs12であるResponsible Consumption and Production というエネルギーを「つかう責任、つくる責任」の実現に向けた活動と位置付けられました。学生たちも巻き込んで、大学全体として活動意義についての理解を深めながら進められています。
いずれの事例も、設備導入と運用能力構築にとどまらず、活動への同意と賛同—「ハートウェア」によく気をつかったことが持続的な取り組みに繋がっているのです。
本論文から学ぶべきこと
●ハートウェアに配慮してこそ新技術は導入可能になる
この事例から私たちが学ぶべきことは、第一には「ハードウェア、ソフトウェア、ハートウェア」という考え方でしょう。これは脱炭素、あるいは環境保護活動に限定された話ではありません。あらゆる新技術について、その成功裏な導入のためには、信頼性高いハードウェア、それを運用するソフトウェアに加え、人々の理解というハートウェアが必要になる。もし皆さんが新技術に挑戦するなら、ハートウェアにまで配慮した形でプロジェクトをデザインする必要があるでしょう。
●脱炭素にはまだまだ事業機会がある。それは、市民参加で事業設計すべきである。
脱炭素というと、本当に儲かるのかとか、そもそも本当に意味があるのかといった点に疑念が投じられます。詐欺まがいの事業者が社会問題ともなっています。そんな中で、本論文はいくつもの事例を通じて、成功裏な事業化が不可能ではないことを示してくれています。
加えて本論文では、安定的な成功のためには地域住民をはじめとしたステークホルダーの同意が大切であることも事例から示されています。事業者だけで、事業利益だけを目的に営んでも、脱炭素事業は上手くは進まない。脱炭素の事業性質からして、長期目線での、ステークホルダー調和のもとに事業を構築することが求められるのです。
記事原案 M.Sumida
