ブランド選びで「自分らしさ」を貫けるかは“考え方の視点”で決まる
自己との結びつき(SBC)が購買判断を左右する 背後にある心のメカニズムとは
本研究は、上智大学経済学部の杉谷陽子先生と戸川拓先生によるもので、消費者がブランドを選ぶときに「自分とのつながり(Self-Brand Connection: SBC)」と「社会的評価(Public-Based Evaluation: PBE)」のどちらを重視するのかを、実験を通して明らかにしたものです。
3つの実験で検証:人は“自分らしさ”を選ぶ
研究では、日本の消費者を対象に以下の3つの実験が行われました。
【実験1】
この実験では、参加者に「どのブランドの服を買うか」を想像してもらいました。その際のシチュエーションは2パターンありました。
・プライベートな場面:親しい友人との旅行
・パブリックな場面:職場の同僚との出張
どちらも「自分が好きなブランド(SBC)」と「周囲に好まれそうなブランド(PBE)」が食い違う状況を設定しました。そして、どちらのブランド評価がより自分の意思決定に影響するかを測定しました。
その結果、場面の違いに関係なく、自分らしさを重視する傾向が強いことが明らかになりました。つまり、人は誰と一緒に過ごす場面であっても、「自分に合っている」と感じるブランドを選ぶ傾向があるのです。
【実験2】
231人の大学生を対象に、「明日旅行に行く(具体的な心構え)」か「3か月後に旅行に行く(抽象的な心構え)」かによって、自分らしさか、周囲に好まれそうか、の重要度に違いが出るかを調べました。
抽象的な思考状態の参加者は自分らしさのみを重視した一方、具体的な思考状態では自分らしさと周囲に好まれること、両方が購買決定に影響しました。
これは、心の持ちようによって人が注目するポイントが変わるという「構成レベル理論(Construal Level Theory)」に基づいています。
この理論によると、将来のことを考えているときのように“心理的距離”があると、人は目先のことよりも本質的で長期的な価値に目を向ける傾向があります。今回の実験では、旅行が「3か月後」という遠い未来であるときには、参加者は「自分らしさ」との結びつきを重視しやすくなったのです。
【実験3】
172人の学生が、自身の好きなブランドに対して、自分らしさ、周囲から好まれそうか、購買意図を評価しました。
思考の抽象度を測定した上で解析したところ、抽象的な思考をする人では自分らしさが、具体的な思考をする人ではの両方が、購買意図に強く影響していることがわかりました。
マーケティングは「真の自己」に寄り添うべき
この研究は「消費者は本質的には“自分らしさ”に基づいてブランドを選びたいと考えている」ことを明確にしました。
これは、たとえ東アジアのような“集団主義的文化”においても当てはまるという点で注目に値します。
マーケティングやブランディングの実務においては、次のような工夫が有効です。
・カスタマイズ体験の提供:消費者が「自分だけのブランド体験」を得られる仕組み(例:イニシャル入り商品、カスタムオーダーなど)。たとえば、色やデザイン、ネーム入れなどを顧客自身が選べる商品は、ただの消費ではなく“自己表現の機会”になります。
人は「自分で選んだ」「自分らしさを表現できた」と感じる商品に対して、より強い心理的な結びつきを感じます。これは「自己決定理論」や「拡張された自己(Extended Self)」の考え方にもとづいており、自分が関与したものは“自分の一部”として扱われやすくなるためです。
その結果、ブランドへの愛着が高まり、リピート購入や口コミにつながる、価格以外の価値(パーソナル性、独自性)を実感できるため、価格競争に巻き込まれにくい、ブランド体験そのものが印象に残りやすく、顧客満足や記憶への定着を促進する、などの効果が考えられます。
・広告戦略のタイミング調整:
使用時期が遠い場合には「あなたらしさ」を訴求することで、消費者の本質的な価値観に響き、購買意欲が高まります。
近い場合は「みんなの好み」を押し出すことで即時的な共感と行動を促せます。
・真の自己”を刺激するストーリーテリング:
ブランドと“理想の自分”が重なることで、消費が自己表現の手段となり、ブランドへの共感と長期的なロイヤルティが高まります。
杉谷先生らの研究は、ブランド選びが単なる好みや流行だけでなく、「自己実現」や「心理的幸福」に深く関係していることを示しました。
ビジネスパーソンにとっては、「顧客が自分を表現できるブランドづくり」が、これからの差別化の鍵になるでしょう。
