Reader Report
考えたこと創出された「時間」で次のものを生み出せているのか?
2026年8月10日 7:39 AM
1.コロナ禍が一気に進めた「紙からデジタルへ」
コロナ禍によって出社が制限され、それまで紙と押印を前提としていた契約業務の電子化が一気に進んだ。
従来の契約業務では、
印刷 → 製本 → 押印 → 郵送 → 返送 → 保管
という一連の作業が必要だった。
電子契約によって、これらの作業の多くが不要になった。
ここで重要なのは、単に「紙がなくなって便利になった」ことではない。
これまで契約締結という「作業」に使っていた人の時間が、大幅に削減されたことである。
2.効率化によって、新しい問いが生まれた
作業時間が削減されれば、本来は次の問いが生まれる。
「では、その時間で何をするのか?」
紙を印刷する、押印する、郵送する、ファイリングするといった作業自体には、確かに人の時間が必要だった。
しかし、それらがデジタルに置き換われば、人はその作業から解放される。
すると仕事に求められるものも、
「作業をこなす」ことから、「人にしかできない価値を生み出す」ことへ
移っていくはずである。
電子化による本当のインパクトは、作業時間の短縮そのものではなく、人間が仕事で何をするのかを問い直す契機になったことにあるのではないか。
3.ところが、電子化推進側は「電子化件数」を追う いまだに追う 仕事を変えた感は出る・社内アピールにはなる・・・
実際の組織では、ここに分断が生じる。
電子化を推進する部署には、
電子契約への移行件数
電子化率
紙の削減量
導入部署数
などのKPIが設定される。
その結果、推進部署にとっては、
「どれだけ電子化したか」
が成果になる。
一方、
「電子化によって生まれた時間を、現場がどのような価値に変えたのか」
については、現場に委ねられる。
つまり、
電子化を進める責任は明確だが、電子化した後の仕事を再設計する責任は明確ではない。
4.しかも現場では、すでに仕事の構造が変わっている
さらに現場を見ると、別の問題がある。
紙の契約業務など大量の定型業務を処理していた現場では、すでに派遣社員や外部人材を中心とした業務体制へ移行している場合がある。そこでは、
「何を生み出すか」よりも、「決められた業務を正確に処理すること」
が役割として求められる。
つまり、電子化によって作業時間が減ったとしても、その人たちに対して、
「では、空いた時間を使って新しい価値を生み出してください」
と単純に求めることはできない。
そもそも、そのような役割として仕事が設計されていないからである。
5.ここでDXの循環が切れている
本来、デジタル化による変革は次のようにつながるはずである。
紙の作業をなくす
↓
作業時間が減る
↓
人の時間が生まれる
↓
人の役割を再設計する
↓
判断・改善・企画・創造などに時間を振り向ける
↓
新しい価値を生み出す
↓
組織全体の生産性が高まる
ところが実際には、
紙の作業をなくす
↓
電子化件数が増える
↓
電子化推進部署がKPIを達成する
↓
現場の仕事・役割はそのまま
となりやすい。
「作業を減らす」までは設計されているが、「減らした後の仕事」が設計されていない。
ここにDXが途中で止まってしまう構造がある。
6.これは現場ではなく、マネジメントの課題ではないか
電子化によって生まれた時間を何に使うのかを、個々の現場に委ねるだけでは不十分である。
特に定型業務を派遣社員や外部人材が担っている組織では、
「浮いた時間で何を生み出すのか」を考え、仕事そのものを再設計する主体が必要になる。
したがって、これは単なるIT導入や現場改善の問題ではない。
人・仕事・組織の役割をどう組み直すのかというマネジメントの問題である。
7.DXには「二つの設計」が必要なのではないか
以上から、DXには少なくとも二つの設計が必要だと考えられる。
① 作業の再設計
「何をデジタルに置き換えるのか」
紙、押印、郵送、入力、転記、保管など、人が行っている作業をデジタル技術によって効率化・自動化する。
これは比較的成果を測りやすい。
電子化率、処理時間、削減コストなどで数値化できる。
② 人の仕事の再設計
「そこで生まれた時間を、どんな価値に変えるのか」
判断する、改善する、顧客と対話する、企画する、知識を共有する、新しい仕組みを考える。
こちらは電子化件数のようには簡単に測れない。
しかし、組織が本当に変わるためには、むしろこちらが重要になる。
8.仮説 ― DXの難所は「電子化の後」にある
コロナ禍によって、多くの企業が紙からデジタルへの移行を経験した。
その経験から見えてきたのは、デジタル技術を導入すること自体よりも、その後にある課題ではないか。
作業をデジタル化するだけでは、仕事は変革されない。
作業を減らした後に、人の仕事をどう再設計するかまで踏み込んで、初めてDXにつながる。
電子化件数を増やすことはDXの「入口」であって、「成果」そのものではない。
「何件電子化したか」から、
「電子化によって生まれた時間を、どのような価値に変えたか」へ。
この問いの転換こそが、デジタル化の先にあるDXを考えるうえで重要なのではないか
