消費者はCSRの理由で評価する 電機産業調査【日本経営学会誌】

消費者はCSRの理由で評価する 電機産業調査【日本経営学会誌】

CSR活動は「なぜ行うか」が重要!消費者の本音を探り、企業価値を高める方法 ―電機産業調査より―

多くの企業が社会貢献活動(CSR)に取り組んでいますが、その活動が常に消費者の肯定的な評価につながるとは限りません。場合によってはネガティブな反応を引き起こすことさえあります。

この記事では、前半部分で論文「企業のCSR活動の原因帰属と消費者の知覚反応」を解説・要約します。そして後半では、これらの学術的な知見を実際に組織運営にどのように活かせるのか、具体的なシーンを想定して解説します。


論文の要約消費者は企業のCSR活動をどう見ているのか?

この論文の目的は、消費者が企業のCSR活動の動機をどのように推測(原因帰属1)し、それが企業の評価(知覚反応2)にどう影響を与えるのかを明らかにすることです。
特に、私たちの生活に身近な「電機産業」に関わる消費者を対象に意識調査を実施し、分析を行っています。

調査では、消費者がCSR活動の動機を「利己的(自社の利益やイメージアップのため)」と感じるか、「利他的(純粋に社会や環境のため)」と感じるか、そしてその認識が、企業のイメージや製品に対する評価にどのように結びつくのかを検証しました。

その結果、以下の点が明らかになりました。

  1. 「利他的」動機は好印象: 消費者がCSR活動の動機を「利他的(社会のため)」であると強く認識した場合、企業イメージは向上します。純粋な社会貢献として受け止められ、共感を呼ぶためと考えられます。
  2. 「利己的」動機も一概に悪ではない: 一方で、動機が「利己的(自社の利益のため)」だと認識された場合でも、必ずしもネガティブな反応ばかりではありません。重要なのは、そのCSR活動と「企業の本来の事業との関連性」です。事業内容と関連性の高い活動であれば、たとえ利己的な動機が推測されたとしても、「企業の強みを活かした戦略的な取り組み」として消費者に理解され、一定の評価を得られる可能性が示されました。
  3. 「フィット感のない利己的動機」は危険: しかし、事業との関連性が低い活動で、かつ利己的な動機が強いと消費者に認識されてしまうと、その活動は「見せかけ」「ごまかし」「売名行為」と捉えられ、かえって企業イメージや製品評価を大きく損なうリスクがあることも示唆されました。
  4. 電機産業特有の傾向: 電機産業においては、省エネ製品の開発やリサイクル活動といった環境関連のCSR活動が多く見られます。これらは、企業の事業と密接に関連しており、「環境保護(利他的)」と「技術アピールやコスト削減(利己的)」の両方の側面を持つと認識されやすい特徴があります。

このような場合、企業がどちらの側面を強調して伝えるか、そのバランスやコミュニケーション戦略が、消費者の受け止め方を左右する重要な要素となります。

結論として、企業がCSR活動を計画・実行する際には「何をするか」だけでなく動機の伝え方が重要です。利己的な側面があると認識されても、ポジティブな評価につなげることが可能です。逆に伝え方を誤れば、せっかくのCSR活動が企業価値を損なう「逆効果」にもなりかねないのです。

ビジネスへの応用】消費者に本当に響くCSRとは?

以上の論文の成果を踏まえ、経営者やビジネスパーソンがCSR活動をより効果的に展開するための具体的な視点を、以下に示します。

1.消費者は企業の”本音”を見ている

現代の消費者は、インターネットやSNSを通じて多様な情報にアクセスし発言することが可能であり、企業の表向きのメッセージを額面通りに受け取るとは限りません。この論文は、消費者の推測(原因帰属)が、企業イメージや購買意欲に直接影響を与えることを実証しています。

具体例: 環境保護を大々的にアピールしている企業が、見えないところで環境規制の緩い国で汚染物質を排出していた、といった事実が発覚した場合、そのCSR活動は厳しく批判され、消費者の信頼を失います。活動内容だけでなく、企業全体の姿勢との一貫性が問われます。

2.どう伝えるべきか? – 「利己的動機」も正直に語る戦略が有効な場合も

企業活動である以上、経済的な合理性や事業上のメリットが存在するのは自然なことです。「自社の事業活動を通じて社会課題の解決に貢献する」というストーリーは、正直で現実味があり、消費者にとっても納得しやすい場合があります。

具体例: 電機メーカーが新しい省エネ技術を開発した場合、「この技術は、お客様の電気代を削減する(利己的メリット)と同時に、CO2排出量を削減し地球温暖化防止に貢献します(利他的メリット)」といった形で、双方のメリットと事業との関連性を正直に伝えることで、透明性と説得力を高めることができます。

3.何をすべきか? – CSR活動は「事業の強み」を活かせる分野で

逆に、事業と全く関係のない分野での唐突な慈善活動は、「なぜこの企業が?」「売名行為では?」といった疑問を招きやすく、企業の資源を有効活用しているのかという観点からも、説得力に欠ける場合があります。

具体例
■フィット感が高い例
・電機メーカーが、自社の持つセンサー技術を活用して、高齢者の見守りサービスをNPOと共同で開発・提供する。
・自社工場のある地域で、従業員が専門知識を活かして小中学生向けのプログラミング教室を開催する。

■フィット感が低い(説明が必要な)例
電機メーカーが、本業と全く関係のない熱帯雨林保護のために、突然多額の寄付を行う。(なぜその課題なのか、企業としてどう関わるのか、明確な説明がなければ唐突感がある)

4.誰に、どう響かせたいか? – ステークホルダー3に合わせたコミュニケーション

株主、投資家、従業員、地域社会、取引先など、様々なステークホルダーがそれぞれCSR活動に期待することは異なります。
例えば、消費者は社会的な意義や共感を重視するかもしれませんが、投資家はリスク管理や長期的な企業価値向上への貢献(経済合理性)に関心を持つでしょう。

具体例: 同じ環境技術開発に関するCSR活動の伝達例
・消費者向け広報: 「この技術で未来の子どもたちに豊かな環境を残します」といった情緒的、利他的なメッセージを強調。
・投資家向け説明会: 「この技術開発は、将来の環境規制に対応し、新たな市場を獲得することで、長期的な企業価値向上に貢献します」といった経済合理性やリスク低減効果を強調。
・従業員向け説明: 「自分たちの仕事が社会課題解決に貢献している」という誇りやモチベーション向上につながる点を強調。

結論】CSR活動を成功させるために

現代におけるCSR活動は、単なる慈善事業やイメージ戦略として捉えるべきではありません。それは企業の事業戦略と深く結びつき、その「動機」と「プロセス」を正直かつ効果的に伝えるコミュニケーションが不可欠な、経営の中核的な活動です。

各々のステークホルダーは、企業が「なぜ」その活動に取り組むのかを注意深く見ています。自社の事業の強みを活かし(フィット感)、社会課題の解決に本気で貢献する姿勢(動機の真摯さ)を一貫したストーリーとして語ること。これができれば、消費者の疑念を共感と信頼に変え、企業の評判を高め、最終的には持続的な企業価値の向上へとつなげることができるでしょう。

  1.  原因帰属(げんいんきぞく): ある出来事や人の行動の原因を、個人がどのように推測・判断するかという心理的なプロセス。この論文では、消費者が企業のCSR活動の動機(なぜその活動をするのか)を推測することを指します ↩︎
  2. 知覚反応(ちかくはんのう): 消費者が企業や製品に対して抱く、イメージ、評価、感情、購買意欲などの反応のこと。原因帰属の結果として生じる評価や態度の変化を指します ↩︎
  3.  ステークホルダー:企業活動によって影響を受ける、あらゆる利害関係者のこと。消費者、株主、従業員、取引先、地域社会、行政などが含まれます ↩︎

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