部品のすり合わせで勝つ経営とは 工作機械の研究から【日本経営学会誌】

部品のすり合わせで勝つ経営とは 工作機械の研究から【日本経営学会誌】

【論文の要約】

長岡技術科学大学の鈴木信貴先生による論文『モジュラー対インテグラルの製品開発競争』では、製品開発における「モジュラー型」と「インテグラル型」の競争を分析しています。  

モジュラー型とは、パーツを簡単に組み合わせられる製品設計のことで、インテグラル型とは、パーツ同士が深く複雑に結びつき、全体最適を目指す設計のことを指します。

近年では、ティファールの「取っ手が取れる鍋」やLEGOのプログラミング教材「SPIKE」、マキタのバッテリー共通電動工具シリーズなど、パーツを自由に組み替えられるモジュラー型製品が広く普及しています。こうした動きに乗って、部品や機能ごとに専門性を持つ企業も増える中、すべてを一体で設計・開発するインテグラル型企業がどう生き残るかが問われています。インテグラル型で開発すれば、部品同士を相互最適化し、製品の性能を高めることができますが、どうしてもその分、コストや時間が多くかかってしまうのです。

ここでは日本の工作機械産業におけるNC装置(数値制御装置)開発競争を事例に、モジュラー型の王者ファナック株式会社(以下、ファナック)に対し、独自開発に挑んだ日立精機株式会社(以下、日立精機)とヤマザキマザック株式会社(以下、マザック)のインテグラル型2社を比較しました。

ファナックは、CNC装置(コンピュータ数値制御)の分野で世界トップシェアを誇り、各構成部品を用途に応じて柔軟に組み合わせられるモジュラー型製品構成を特徴としています。

特に「FANUC Series 0i」や「30i」などの主力製品群は、世界中の工作機械メーカーに採用されており、2023年度には売上高8,000億円超を記録するなど、名実ともに“モジュラー型の王者”とされています。

このファナックに挑み、日立精機は競争に敗れ撤退しましたが、マザックは成功し、世界トップクラスのメーカーに成長しました。なぜ同じインテグラル戦略をとった企業間で成否が分かれたのかを分析します。

日立精機の敗因は、

・ 内製化にこだわりすぎたこと
・ 開発スピードの遅れ
・ 部品点数の増加によるコスト高
・ 顧客ニーズに柔軟に対応できなかったこと

などが挙げられます。

一方、マザックの勝因は、

・ チーム主導の柔軟な開発
・ 無駄な部品の徹底削減
・ 独自のNC装置MAZATROL(マザトロール)の囲い込み
  ※MAZATROL:マザックが独自に開発した数値制御装置(NC装置)。通常のNC装置が専門的なプログラムを必要とするのに対し、MAZATROLは画面上の質問に答えるだけで加工プログラムを自動生成できる「対話式操作」が特徴。専門知識のない作業者でも直感的に操作できるため、操作性・生産性の両面で高く評価されています。

にありました。

つまり、インテグラル型で市場で生き残るためには、チームワークを高め、スピード・コスト意識を高く持つことが大切だったのです。そしてまた、MAZATROLのような、競争力の源泉となる知財の集積物を生み出し、これをしっかり握っておくことも大切でした。

ビジネスへの活かし方

ここで、インテグラル型を活かすビジネス戦略として、マザックの勝因に学ぶ3つの活用法をあげてみます。

1.チーム主導の柔軟な開発「現場主導の意思決定体制を整える」

活用ポイント:

マザックは、プロジェクトマネジャーに裁量を与え、開発現場でスピーディな判断を可能にしました。
これは製造業に限らず、どの業種でも「意思決定の現場主導化」が重要です。

具体例:
・ サービス業:現場のリーダーが顧客対応の改善を即判断できる体制にする
・ IT開発:プロジェクト単位での裁量と予算管理を持たせる「スクラム型開発」導入

“上が決める”から“現場が動かす”へ転換することで、競争スピードに対応できます。

2. 無駄な部品の徹底削減「本当に必要な価値だけに集中する」

活用ポイント:

マザックは、不要な部品を見極めて削減し、価格・性能・生産スピードのバランスを最適化しました。
これは製品・サービス設計においても「機能を足すより、引く」視点が活きます。

具体例:
・ サブスクサービス:使われない機能をやめ、コア機能に特化してUX向上&コスト削減
・ ECサイト:高機能な検索よりも、シンプルで迷わない導線に絞り込む

 ムダを削ぎ落とすことで、“これなら使いたい”と感じてもらえる体験を届けられます。

3. 独自NC装置(MAZATROL)の囲い込み「自社独自の体験価値を囲い込む」

活用ポイント:

マザックは、使いやすさに優れたMAZATROLを「他社に使わせず、自社製品にだけ搭載」することで、唯一無二の強みに育てました。これをビジネスに置き換えると、「他社にマネできない体験や仕組みを、自社のみに限定する」ことが鍵です。

具体例:
・ オリジナルアプリと連動するIoT製品を、自社ブランド製品のみに対応させる
・ コンサル・教育事業で独自フレームワークを構築し、外部には非公開で運用する

 “ここでしか味わえない”体験を守ることが、価格競争に巻き込まれない差別化になります。

まとめ

マザックの成功から学べるインテグラル型活用法は、

  1. 意思決定の現場主導化でスピードと柔軟性を得る
  2. 価値の本質を見極めて設計を削ぎ落とす
  3. 独自性を囲い込み、自社だけの体験として磨き上げる

この3つです。

どれも「一体化された価値」を軸に、高機能ではなく“高体験”を届けるための考え方といえます。

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