効果的な若年層アントレプレナー教育の形とは
国際的な比較から、日本の若者は起業動機が他国に比べて著しく低いことが分かっています。それは社会文化や教育システム、産業構造など様々な要因が絡まり合っていることなので、簡単には変わりません。しかし、それは若年層に直接的にアントレプレナー(起業家)教育を行うことが無駄だということでは決してありません。効果的なアントレプレナー教育は確かに受講者たちの起業能力・意欲を高めることにつながることもまた明らかになっています。
高崎商科大学の高見啓一先生たちの論稿「実践共同体概念に基づく高校生のアントレプレナーシップ開発メカニズム:商業高校の地域連携型アントレプレナーシップ教育の定量分析」では、効果をあげうるアントレプレナー教育について、一歩踏み込んだ明確なかたちを提案しています。統計分析によって明らかになったのは、高校生の起業意欲に対して効果的なのは、自発性、コミュニティの活況度、越境学習である、ということです。
研究の概要と結果
高見先生たちは、商業高校の加盟校1,370校に対して質問調査票を送付し、アントレプレナー教育を行っている37校から662件の有効回答を得ました。このデータを分析する中から、本論文では統計的に頑健なかたちで、以下のような構造があることが明らかになりました。
アントレプレナー教育プログラムのマネジメントとしては以下の3点が大切でした。
●サーバント・リーダーシップ
サーバントとは召使いのことです。私が私が、と前に出ていくのではなく、教育プログラムの担当者が生徒の自主性を重んじ、しかし明確にゴールに向けて皆を促していくようなリーダーシップが採用されるとき、教育プログラムは学生たちから、学校ともプライベートとも異なる「サードプレイス」であるとの認識を強めました。
●自発性
生徒たちの自発性も、決してここで「個人の問題」とされません。生徒たちが自発的に取り組めるようにするための仕掛け—ルールを自分たちで決めさせたり、入退会も自由として能動的に参加するかたちを採用することがここで大切でした。
●非公式性
非公式性とはすなわち「インフォーマルな交流」。プログラム内だけでなくそれ以外のところでも学生たちが人間関係を深めていることが鍵となることがわかりました。
この3つが備わっているとき、アントレプレナー教育プログラムは学生たちにとって「サードプレイス」だという認識が強まることが明らかになったのです。
ではこのサードプレイス認識は、学生たちの行動にどのような影響を与えるのか。高見先生たちは、このサードプレイス認識が学生たちの越境行動を推進することをつきとめました。
越境行動とは、あいまいな状況、不確実な状況でも、失敗を恐れず、試行錯誤をしながらメンバーたちを信頼して役割を任せていくことです。すなわち、普段の自分の安定したコミュニティのなかでの行動ではなく、通常状態とは異なる環境:自分の普段のテリトリーを越境した先での効果的な行動が、越境行動です。サードプレイスは、学生たちに越境行動を安心して行わせられる場として機能するのです。そして、この越境行動が、起業家としての精神:アントレプレナーシップへと繋がっていく。
若年層のアントレプレナーシップが育める効果的なプログラムの形がここに一つ、見出されたわけです。
若年教育の考え方、そして一般論としてアントレプレナーシップの育み方
この論文から第一に学べることは、高校生世代のアントレプレナー教育には場の設計が大切だということです。自発性、インフォーマルな交流、教員はしゃしゃり出ないけれどもしっかりコミットする。これらを通じて場が自分たちにとってのサードプレイスだと認識されれば、その場に対して貢献しようとし、その越境の場での貢献のスタイルがアントレプレナーシップにつながる。高校生世代の学びのあるべき形として、上記の3つがきちんとできているかは都度見直されなければならないでしょう。
では、本論文は高校生のアントレプレナー教育以外に対して、言えることはないのかといえば、そうではないことも皆さんはもうお気づきでしょう。この話は本質的にはどんな世代にも当てはまり得る話です。
成人に対して同じモデルがそのまま当てはまるかは分かりません。仕事を抱え、忙しくしている社会人に対して、自発性やサーバント・リーダーシップで場が動いていくのかは十分な疑義が残ります。皆さんも自発性を貴んだ結果として空中分解しているコミュニティを見かけることはまれにあるはずです。
とはいえ、上手な場の仕掛けと、そこへの貢献が越境行動を促進し、アントレプレナーシップが身に着いていくとする基本的な考え方は非常に参考になるものです。あなたの会社に変化をもたらしたいならば、「目的性を持って、場のマネジャーが緩やかにメンバーを動機づけ、行動を促すサードプレイス」を設計してみてはどうでしょうか。副作用も少なく、仲間たちの意識や行動に変化が出たなら、それは十分な成果を上げたといってよいはずです。
