海外拠点を育成するとき、国内拠点に何が起こっているか
国際的に事業を展開している企業には、固有の課題でもあり固有の強みともなることがあります。それが、海外拠点と国内拠点を「どう繋ぐか」です。国内だけで事業を行う企業と比べたとき、国際展開している企業は、海外拠点を管理したり、育成指導したりという負荷がかかります。しかしそれは単なる負荷ではなく、独自の能力蓄積の機会でもあるのです。
西南学院大学の藤岡豊先生の論文「生産技術システムの国際水平移転」は、同タイトルの自著が学会賞となったことを受けて、その受賞者講演録をもとに書かれたものです。この論文では、統計分析と事例の積み上げを通じ、日本の製造業企業が海外拠点に「教える」ことを通じて国内拠点の能力構築を行ったことを検証した重要な研究です。
「形式知化」を媒介に、教育は双方の能力構築を促進していた
従来より、国際経営分野では、海外拠点を育成指導することの重要性は知られており、どのような育成指導が効果的なのかが長年研究の対象となってきました。しかし、藤岡先生は育成指導を行うことが、教える側の成長をも促す可能性があることに注目します。なぜならば、製造実務の現場では無意識のうちにこの「教えることを通じて人材育成をはかる」ことが行われていたからです。
そこで、藤岡先生は、アメリカ、タイ、インドネシア、ベトナム、マレーシア、台湾の6カ国で少なくとも5年以上操業している日系多国籍企業の製造子会社に質問票調査を行い、教えることが本国拠点の能力構築にも寄与していることを明らかにしようとしました。
しかし、その結果は、教えられた側は確かに成長すれども、教える側が成長するとする明確な結果は得られないものでした。
藤岡先生はここで「教えやすくする工夫」という要素が様々なものを繋いでいることに気が付きます。少し固い表現をするならば「暗黙知の形式化」。そのまま移転するのでは難しい技術や工程を、分かりやすく、伝わりやすく、習得しやすい形に変えて移転する。この工夫はもちろん、教えられる側の吸収をより早くします。と同時に、この工夫をするために、教える側も一度工程や教え方を吟味することになるため、製造・開発の能力向上が起こっていたのです。
藤岡先生は、教えやすくする工夫(暗黙知の形式知化)という要素を入れ込んだモデルで再検証し、教えること教わることの双方へのプラスの影響を確認したのでした。そしてまた、この関係は藤岡先生が観察した複数の事例でも同様に観察されたのでした。
教えることが、教育者本人を次のステージに引き上げる
教えることが、教えている側にもプラスの効果をもたらすことは、教育学では古くから知られていました。自分自身がものごとの因果関係や、ものごとの意義を理解していなければ、他者には伝えられない。しかも、他者にわかりやすくしようとするために、自分の中で概念整理をしなければならない。技能構築の現場では、「独力でできる」が技能マスターの基準ではなく「他人に教えられる」までが求められます。
こうした関係が、海外製造拠点と国内拠点でも成り立つことを証明した、大変重要な研究だと言えます。
そしてまた、同じことは広く他の職種分野でも言えるでしょう。
後進を育てることが、育成者本人をさらにひとまわり次のステージに引き上げてくれる。その意味で、教えること、教わることが一般化している会社は強いと言えます。あなたの会社のなかに教育があまねく循環しているか、問い直すきっかけとしてもらえればと思います。
