単に起業意思を高めるだけの起業家教育でよいのか 過去の文献レビューからの提言

単に起業意思を高めるだけの起業家教育でよいのか 過去の文献レビューからの提言

世界的なトレンド、起業家教育に対する警鐘

現在、世界中の高等教育機関で起業家教育が進められるようになっています。経済成長や社会発展の原動力としての起業の役割が強く認識されていくなかで、いかにして一人でも多くの有望な起業家候補を育てられるかが、各国の競争ファクターであるとともに、世界の大学が自らの教育システム良さのアピール機会でもあり、学生を惹き付けるすべになるからです。

京都大学の松本修平先生たちは、論文「近視眼化するアントレプレナーシップ教育研究」で、この流れに対して異論を唱えます。近年、起業家教育に関する効果の報告事例は確かに増えているが、「このプログラム内で受講生たちの起業意思(Entrepreneurial Intention)が高まった」とする報告ばかりで、それは真の起業家教育になっているのか、と。

起業意図の高まりが、教育の成果なのか

松本先生たちは、起業家教育プログラムと起業意図との関係を検証しようとした論文112本を分析対象とし、そこから総じてどういう知見が得られているのかを検討しました。その結果は以下の通りです。

●世界中、ほぼすべての地域からの論文発表がある。

●このうち多数派であったのは、質問票を1枚配布するかたちのアンケート調査の形式である。

●教育の結果として起業意図が高まった、とする結果は、主にこのアンケート調査によって示されている。実に73件のアンケート調査中、71件が起業意図が高まったとしている。
→これが意味しているのは、「起業意図」はこうした1枚もののアンケート調査で出しやすい結果だという可能性である。

●ほとんどの論文において、教育プログラムの中身がどのようなものかは書かれていない。

以上から、過去の研究成果を素直に読めば、起業家教育は起業意図を高めているとは言って良いのだろうが、教育プログラムの中身が書かれておらず、配布された1枚のアンケートの中で起業意図と教育プログラム受講との相関が見られたという結果を、教育の勝利であると見なしてよいのか、と松本先生たちは疑問を呈するのです。

そして、松本先生たちはむしろ「起業意図が下がった/上がった人もいれば下がった人もいた」とする、異なる結果を報告していた論文のほうにこそ、注目をすべきなのではないかと考えます。そして、それらの論文の中から、むしろこれこそが教育の成果なのではないかとみられる重要な発見を得ています。

●教育プログラムの中で、自分自身が起業に向いた人材なのかどうか、適性を事前に知ることができた。

●教育プログラムの中で、起業の難しさを痛感した

●教育プログラムの中で、起業というものの現実をよくよく知ることができた

教育プログラムが一様に受講者の起業意欲を高めるとするほうが懸念すべき見立てではあり、本来あるべき起業家教育は、起業のための意欲のみならず、その適性や、能力構築的側面もまた考えなければならないのです。

何が教育プログラムの役割なのか

以上を踏まえて、松本先生たちは、1)安易な1枚配布型のアンケートで教育効果を語るべきではないこと、2)教育プログラムの具体的内容を明確に記述すること、3)一様に起業意思を高めるばかりが教育機関の役割ではないはずで、教育プログラムの目的を見直すべきこと、を提言しています。

教育機関や、あるいは人材育成において、上記の指摘はたいへん重要なことだと言えます。時系列で、受講者たちがどう変化したのかを捉えること。それに先立って、どう変化することを望ましいと考えるのか。これらの前提の整理なしに、起業家教育を行えば受講者の起業意図が高まったから、教育成功だ、とするのは適切だと言えないでしょう。

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