「正解病」から抜け出せ!――組織を救う“デザイン思考”という処方箋
主観からはじまる創造と共感の思考法
今、ビジネスの現場で「デザイン思考」が注目されています。
デザイン思考と聞いて「おしゃれな製品をつくること?」「デザイナーだけのものでは?」と思う方も多いかもしれません。
しかし本来のデザイン思考とは、見た目の良さを追求する手法ではありません。
「正解のない問い」に向き合い、ユーザー中心に問題を再定義し、柔らかく、しなやかに解決へと進んでいくための思考スタイルです。
本稿では、立命館大学の後藤智・八重樫文両先生による論文「デザイン思考研究は組織論の発展に貢献するのか」の内容をもとに、デザイン思考の本質を探りながら、それが私たちの仕事や組織でどのように役立つかを考えていきます。
デザイン思考とは何か 5つの視点
立命館大学の八重樫文・安藤昌也両先生は、デザイン思考の核となる視点を次の5つに整理しています。
1. 問題解決行動としてのデザイン
ノーベル賞を受賞したハーバート・サイモンの定義では、「現状を望ましい状態へと変えること」そのものがデザインだとしています。つまり、ビジネスでも日常でも、人が何かをよりよくしようと工夫するすべてが、広義の“デザイン”なのです。
2. 省察的実践
教育学者ドナルド・ショーンが提唱した「やりながら考える」実践知。事前に完璧な計画を立てるのではなく、試行錯誤しながら状況に応じて柔軟に対応する姿勢を重視します。
3. リベラルアーツ的思考
デザイン思考は、分野を超えて共有できる「横断的な知の言語」でもあります。とくに複雑であいまいな「ウィキッド・プロブレム(wicked problem)」に対処する際に、多角的な視野が力を発揮します。
4. 探索的な思考プロセス
「アイデアは最初から完成していなくてよい」。むしろスケッチや試作品(プロトタイプ)を通じて、形にしながら考え、試しながら学んでいく。そうした“手を動かす思考”もデザインの一部です。
5. 意味の創造
人はモノそのものではなく、それに込められた「意味」に価値を感じます。デザイン思考は、その意味や価値をユーザーの視点から再解釈し、共につくりなおしていく営みでもあります。
これらに共通するのは、人間の主観、感じ方、価値観を大切にすること。だからこそ、技術や理論だけではたどり着けない創造的な解決が可能になるのです。
デザイン思考が「組織」に効く理由
――個人の思考が、やがて文化を変える
後藤先生・八重樫先生は、こうしたデザイン思考の特徴を踏まえ、「主観を起点とする思考法は、組織論の進化に新たな可能性を開く」と主張します。
従来の経営論や組織論は、客観性や再現性を重んじ、個人の感覚や柔軟性を軽視する傾向がありました。しかし今のように正解のない課題に取り組まねばならない時代には、個人の「こう感じる」「こうしたい」といった主観の力こそが、創造の出発点となります。
このとき重要になるのが「ミクロ的基底(micro-foundation)」という考え方です。
これは、一人ひとりの思考や態度の変化が、積み重なってやがて組織の文化や意思決定に影響を及ぼす、という視点です。
つまり、どんな立場にいても、あなたの問いや行動が、組織を変える力になり得るということです。
実務に活かす4つのヒント
――小さな一歩からはじめる、創造と共感の思考
デザイン思考は、決して特別な人だけのものではありません。以下のような実務的な取り組みから、誰でも始めることができます。
1. 主観を拾う「風土づくり」
「私はこう感じる」「これって使いにくい」といった小さな声を拾い上げ、歓迎する文化をつくること。人の感じ方を“主観だから”と切り捨てず、「発見の入り口」として扱う姿勢が重要です。
2. 試作して学ぶ「プロトタイピング」
企画会議で完璧な案を練るよりも、「紙に描いてみる」「簡易版をつくって反応を見る」といった行動が、学びと共感を加速させます。完成度よりスピードと柔軟性がカギ。
3. 慣習を壊す「デザインモード」
「いつもそうしているから」ではなく、「もっとよい方法はないか?」と問う姿勢を持つ。慣習に埋もれた思考をリセットし、問い直す力が、変革の第一歩になります。
4. ポジティブな問いで始める
「どこが悪いか」ではなく、「何がうまくいっているか」から問い始めること。これは「Appreciative Inquiry(肯定的探求)」という組織開発の方法とも通じ、変革を前向きな体験に変えてくれます。
本稿で紹介したように、デザイン思考は人の主観を尊重し、試行錯誤を通じて新しい意味や価値をつくり出す力です。後藤・八重樫両教授の言葉を借りれば、それは「組織を変える思考の態度」でもあります。
完璧でなくていい。まずは小さな問いから。
あなた自身の感覚や違和感を出発点に、ぜひ今日から「デザイン思考」を始めてみてください。
