組織の寿命が未来の時間展望に与える影響
この研究は、東京大学の清水剛先生が、企業の「寿命」と人々の未来の見方(未来時間展望)の関係を調べたものです。企業の寿命に関する統計データ(東証一部上場企業の存続率、国税庁や法務局の会社開廃業率など)や、戦前・戦後の小説や新聞記事などに描かれた労働者や会社員の意識を分析しました。
分析から、企業が長く続くか短いか、また個人がどれほど組織に依存しているかによって、人々の未来への展望が「同一化型・自律型・移動型・不安定型」の4つのタイプに分かれることを示しました。

研究の結果、会社がどれくらい長く続くと思えるかによって、人の将来の考え方(未来時間展望)が大きく変わるという点を示しました。たとえば、高度成長期のように企業の安定が信じられていた時代には、会社と自分の人生を重ね合わせる「同一化型」が広がりました。一方で、企業の寿命が短い戦前やバブル崩壊後の時代には、転職を前提とする「移動型」や、不安を抱えながら組織に頼る「不安定型」が目立ちました。
つまり、組織の安定性と、個人がどれだけ組織に依存するかの組み合わせによって、人々の未来の見方やキャリアの描き方は大きく変化してきたのです。
未来時間展望を実務で活かす3つのヒント
1. キャリア支援に活かす
部下や若手社員に対して「組織が安定しているから安心だ」と言うだけではなく、「自律型」や「移動型」の発想も尊重しましょう。研修や1on1で「組織に依存しすぎず、自分でキャリアを描く力」を養うことを伝えていきます。
例 キャリアデザイン研修で「3年後・5年後のキャリアプラン」を言語化させる。
副業や社内兼業制度を導入し、組織外でもスキルを磨ける環境をつくる。
若手社員との1on1で「会社での成長」だけでなく「個人としての将来像」をテーマに話す。
2. 人材マネジメントに活かす
組織の寿命が不透明な時代には、社員が「不安定型」になりやすいです。マネジャーは、会社のビジョン共有や将来像の提示を通じて、社員に安心感を与えることが大切です。
例 経営層が中期経営計画や将来のビジネスモデルを社員に分かりやすく説明する。
プロジェクト単位で「この経験は将来こう役立つ」と都度フィードバックする。
定期的に社員アンケートを実施し、キャリア不安や組織への信頼度を測定・改善する。
3. 採用・定着戦略に活かす
人材の価値観が多様化しているため「同一化型」だけを前提にした採用は、ミスマッチが生じやすいです。「移動型人材」を前提にした仕組み(プロジェクトベース採用や短期契約)を業務に組み込んでみましょう。
例 ジョブ型雇用や専門職採用を拡大し、プロジェクトベースで成果を出せる人材を採る。
インターンや短期契約社員を登用し、即戦力をチームに組み込む。
社外経験を持つ人材に「ここで働く意味」を伝えるオンボーディングプログラムを設ける。
研究から導き出された未来時間展望の4タイプは、働く人の意識を読み解く大切なヒントになります。安定と変化が交錯するいま、企業も個人も一つの型に縛られる必要はありません。
多様な価値観を前提にキャリアや人材戦略を考えることこそ、これからの時代に求められる姿勢です。
