技術進歩と標準化は両立できるのか HDMIの事例

技術進歩と標準化は両立できるのか HDMIの事例

技術進歩を促進する標準化はあり得るか?HDMIフォーラムの事例

私たちの周りには、企業間で共同で取り決められた様々な標準があります。コンセントの形、パソコンのUSBのインターフェース、通信電波の規格など……。それらが企業によってばらばらであれば、社会的なコストが非常に大きくなってしまうからです。ドコモとauで電波の互換性がなければ、企業にとっても消費者にとっても甚大な負担が発生してしまいます。

その一方で、標準が定まると、そこで技術の進歩は一定程度制約を受けることになります。より高速通信ができる通信規格を作れたとしても、各社足並みを揃えなければいけませんから、その調整に時間を要し、社会への導入には数年近くかかってしまいます。標準と技術進歩との間にはそうしたトレードオフがあることは、昔から実務界・学界における重要な問題だったのです。

一橋大学の柳 京旼先生と筑波大学の立本 博文先生は、論文「Enabling Innovation Activities in Standardization(標準化の中でイノベーション活動を可能にするには)」において、技術進歩を促進しうるような標準設定機関(SSO:Standard-Setting Organization、各社から代表者を出して標準化を行う基幹)の在り方があるのではないかという問いを立てます。標準化と技術進歩の両立を図れるような形が、あるのではないかと模索したのです。

この調査で対象とされたのは、ディスプレイへの映像の送受信に用いられる規格:HDMIの標準化機関、HDMIフォーラムです。1998年から2018年までの期間にわたって、ディスプレイ関連企業総計339社、全679,736件の関連特許の分析から、SSO参加がその企業の特許創出にどういう影響があったのかを分析しました。

その結果、SSO参加の特許創出効果は、期間を通じてU字型となっていたことが分かりました。

この背景には、HDMIフォーラムの運営方針が強く影響していました。HDMIフォーラムは当初限られた企業だけが参加するクローズドのSSOとして発足し、その当初は参加各社が技術的主導権をとるべく特許を多数発表していました。しかし、フォーラムに多くの企業が参加し、技術的な成果をただ乗りして使う傾向が増えると、各社は特許創出への積極性を失います。そこには、参加各社の技術を調整して決定していくコストが甚大になっていったことも影響していると考えられています。

その後、2012年にはHDMIフォーラムは外部企業からの知識の取得、市場拡大を念頭に、オープン化の方針に切り替えます。基本的なルールを守っていれば、よい技術は自由に採用・導入してよい、というような標準形式につくり変えたのです。すると、再び有力な企業がフォーラムに参加するようになり、自分たちの技術を積極的に他社に使ってもらえるよう、切磋琢磨するように特許創出が加速していったのです。

●内部で調整して標準を策定していくクローズド・ポリシーだと、少数のうちは良いが、企業数が増えると調整コストが増えて技術進歩が停滞する。ただし、規格制定の初期は基本的な仕様を固めなければいけないので、クローズド・ポリシーを取らざるを得ない。

●最小限のルールを守れば技術的な自由度を担保するオープン・ポリシーだと、参加が促進され、特許創出も加速する。


標準化機関のあるべき形とは

ここから私たちは、大変重要なことを学び取ることができます。それは、技術進歩を進めていく上で、企業間の調整コストは最小限にすることが望ましい、ということです。競い合うことの方が技術進歩にはやはり重要であるということが、この論文では示唆されているのです。

とはいえ、全てを個社が自由にやれば社会が混乱することも事実。SSOによって基本的なルール作りが行われたうえで、そこから先は自由な競争を促進する。これが、標準化と技術進歩を両立するための鍵である。柳 京旼先生たちの研究は、大変重要な気づきを私たちに与えてくれているのです。

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