はじめに
これまでの経営戦略研究は、ベンチャー企業が投資家から資金調達を受けるときの状況について、その属性(社会性、起業家の物語、品質など)を個別に分析する傾向がありました。
しかし当然のことながら、人間は情報を全体的なパターンとして処理する「Configurational Cognition(構成的認知)」を行うため、投資家も複数の属性を相互に、かつ同時に評価していると考えられます。
したがって、単一の属性を研究していても、その本質にたどり着くことはできません。
例えば、社会性と資金調達の関連性を調べても、現実には他の要素、例えばピッチが雄弁であることが影響していることも考えられるためです。
こうした現状に対し、マクマスター大学のCalic先生らの研究「Seeing the whole: Configurational cognition and new venture resource mobilization」では、人間の情報の全体的な処理傾向ーつまり「構成的認知」に着目し、どのような要素の組み合わせが投資家からの資金調達を可能にするのかを明らかにしました。
研究手法
世界最大のクラウドファンディングデータベース「Kickstarter」を用い、1,395件のテクノロジー関連のキャンペーンを分析しました。
手法は、fsQCA(ファジィ集合質的比較分析)を用いています。
これは「組み合わせを探すための分析方法」で、定性分析と定量分析を組み合わせて行います。
分析した4つの要素は以下の通りです。
①基礎的品質:画像や動画の使用。
②ソーシャルネットワーク:Facebookの友達数
③ナラティブ(物語):起業家的志向、ポジティブ心理学、社会的価値
※著者らがデータベースのテキストを分析し、操作的に定義した変数を利用
④コミュニティへの埋め込み:クラウドファンディング内での「リピーター支援者(Returning backers)」の存在。
結果
この分析の結果、成功パターンは王道の一つに収束するのではありませんでした。
ただし、複数のパターンがあることが分かりました。
以下は、本研究によって明らかとなった、資源動員を生む(※本研究では資金調達)4つのパターンです。
※以下の支援者=クラウドファンディングキャンペーンでの支援者を示します。
① Endearing Hobbyist(親しみのあるホビイスト型)
・画像などライトな品質情報
・強いポジティブ心理ナラティブ
・コミュニティでの支持の厚さ
→ 感情的つながりを引き起こし、支援獲得。
(例:Thinket、Passion Planner)
支援者コメントに「情緒的共感」が多数みられる。
② Credible Entrepreneur(信頼できる起業家型)
・画像を中心とした品質アピール
・起業家精神の強いナラティブ
・高いコミュニティ埋め込み
→プロとして信頼できる印象を構築し、支援獲得。
(例:Mamba、Lance Glasses、Arclighter)
支援者は「品質への誇り」「ユニークさ」に反応する。
③ Concrete Visionary(具体化されたビジョナリー型)
・起業家精神 × ポジティブ心理 × 社会価値の複数ナラティブを同時に提示
・動画による情報リッチな説明
・強いコミュニティ支持
→ 複雑なビジョンを整合的かつ信頼できる形で伝えることに成功。
(例:BRCK, Limbitless, Eone Time)
強い物語性・社会性の案件に多い。
④ Product Improver(製品改善アピール型)
・高品質画像(多用)
・ナラティブは目立たず、ミニマル
・コミュニティからの強い支持
→ 質実な製品改善ストーリーの支持。
(例:Key Disk 2, Bit Bar)
語りよりも「よくなった」「便利になった」で勝負する。
実践に向けて
この研究が示すのは、成功には複数のレシピがあるが、組み合わせが大変重要だということです。
例えるなら「塩が少なくても、ハーブが強ければ美味しい」「油がなくても、蒸せば旨みが出る」というイメージでしょうか。
うまく話せなくてもプロダクトが磨かれていれば良いし、プロダクトが少々悪くても、社会性や人格が突出していれば、投資家は動くということ。
つまり、アントレプレナー成功の秘訣は、「自分の強みは何かを冷静かつ的確に捉え、それを最大化する要素を戦略的に補充していき、市場に打って出ること」だとまとめられます。
記事原案 こず
