“参加する顧客”が企業価値を創る B2Bブランド・コミュニティの真価
論文要約
近年、「SaaSの死」という言葉が語られるようになりました。すべてがAIで解決でき、自社用アプリまでAIで作れてしまう今、SaaSのサービスが不要なのではないのか?と考えられるようになってきているためです。
でも、皆が同じSaaSを使うからこそ、そこにはユーザーコミュニティが発生する余地があり、一緒に学び合ったり、課題解決方法を相談したりすることができる可能性がある。
SaaSが生き残る道は、コミュニティかもしれない。慶應義塾大学の長橋明子先生の論文「B2Bコミュニティにおける参加行動」は、SaaSをはじめ、BtoB企業においてコミュニティが顧客価値向上に一定の役割を果たしていることを、2000〜2024年に発表された40本の実証研究をレビューする中から明らかにしました。
■B2Bにおけるブランドコミュニティの例
同論文では、たとえば以下のような企業のコミュニティ例が紹介されています。これらは、長橋先生の整理で「ブランドコミュニティ」と呼ばれるもので、企業側が場をリードし、ユーザーに対してその使い方や最新トレンドなどを解説するものです。
| 企業・ブランド | コミュニティの特徴 |
| Adobe | マーケティング担当者などが参加する公式フォーラム「Adobe Experience League」使い方やトレンドを議論・共有 |
| freee(日本) | 中小企業・会計事務所向けにfreeeを活用するユーザー会を組織。勉強会や Slack グループでの交流も盛ん |
■B2B におけるプロフェッショナルコミュニティの例
長橋先生の整理ではまた「プロフェッショナルコミュニティ」も提唱されています。こちらは、同じ業種や職種の専門家同士が知見を交換・学習するために集まるコミュニティで、よりユーザーが主体的に動きます。
| 業種・職種 | コミュニティの例 |
| B2Bマーケター | BtoBマーケティングアカデミー など、企業のマーケット担当者が集まり最新トレンドや成功事例を学ぶ |
| 人事・採用担当者 | HR コミュニティ「Japan HR Meetup」企業の人事担当者が集まり、採用・制度設計などを共有 |
これらのコミュニティは、顧客にいかなる影響を与えているのか。個人レベルとしては、顧客たちはそこで、業務の課題解決や専門知識の獲得、キャリア形成を図っていました。一方、企業レベルでは、コミュニティ内でのナレッジ共有による製品活用の高度化、顧客ロイヤルティの強化、さらには価値共創(Co-creation)機会の獲得が図られていました。
また、能動的に参加する顧客が多いほどこうした効果は高まるため、参加のハードルを下げる仕組みづくりやインセンティブ設計が重要性であったことが明らかとなりました。
実務に活かせるポイント
具体例①:ユーザー主導のQ&A掲示板で、サポート業務の負荷を軽減
企業自身による公式サポートに加え、顧客同士が質問・回答できる掲示板を設置する。さらに積極的に回答したユーザーを定期的に紹介することでモチベーションを高め、結果的に問合せ件数を減らすことで、実質的なコスト削減につなげる。
具体例②:製品改善の“現場の声”を拾う、専門顧客向けSlackグループ
熟練顧客向けのクローズドなSlackグループを開設する。「使いにくい部分」「追加してほしい機能」などを定期的に収集し、製品開発チームと連携して対応する。これによりアップデートの精度を高め、スピードを向上させる。
具体例③:営業KPIを“商談数”から“顧客の発言数”へ一部転換
「コミュニティ内で発言した顧客=関与度が高い」と捉え、営業チームのKPI(達成度評価)の一部に「コミュニティ投稿者への定期フォローアップ件数」を設定する。これにより提案の質向上を目指し、アップセル率の改善を図る。
結論
顧客の知識や経験が“共有資産”になる時代です。参加者が自然と貢献したくなるような場を企業が設計できれば、単なる製品提供を超えた関係性が築かれ、顧客ロイヤルティや製品改良の源泉となります。
小規模でもよいので、自社製品に関心が高い顧客をつなぐ仕組みをつくり、段階的に育てていくことが成功の第一歩となるでしょう。
