ウェルビーイング推進は、職場に何をもたらすのか?
ウェルビーイング(Well-being)とは、身体的、精神的、そして社会的に「満たされた良好な状態」にあることを指す概念です。近年このウェルビーイングを積極的に経営に取り入れていこうという動きがあります。人が財産である時代にあって、健康に、継続的に働いてもらうことが経営戦略実現上、最も重要となってきているからです。
早稲田大学の森永雄太教授が発表した論文「ウェルビーイング志向の人事施策に対する従業員のHR帰属」は、ウェルビーイング施策が現場にどう受け止められ、何が起こるのかを研究しました。
調査の概要
本調査では、東証プライム上場のA社B事業部(258名)を対象に、アンケート調査及びインタビュー調査から、ウェルビーイング施策がどのように捉えられていたのかを分析しました。調査からは、人事が実行した施策が対象者にどのように捉えられていたのかが明らかになりました。対象者の間では、施策の狙いについて6つの事柄が認識されていました。
①ウェルビーイング向上
②不調・離職防止
③業績向上
④リスク・コスト低減
⑤社外アピール
⑥責任遵守
筆者はこれを、①内部組織のためのものか、組織外部に向けた狙いのものか、②マイナスの発生を予防する性質のものか、プラスの発生を促進するものか、という2軸によって、以下のように分類しました。

総じて、ウェルビーイング施策はきちんと個人のウェルビーイング向上のものであることや、それを通じて業績を向上させたり不調や離職を防止する狙いがあることはよく理解をされていました。
しかし、施策が主として何を狙ったものなのかは、人事の想定と、現場の受け止め方にはズレがあったこともまた分かりました。特に、新しく実施された施策では解釈がちらばりやすく、古い施策ではそこに新たな意図を込めたとしても浸透しにくいという課題が示されました。
実務への応用
人事施策は「何をするのか」は比較的伝わりやすく、人事部からの発表にもなんらかの意図や理由の説明があるものです。しかし本論文の結果が示すように、従業員はそれでも各々の解釈をします。施策の意図を正しく浸透させるには、直接メンバーと向き合うミドルマネジメントの役割が鍵となります。
本論文の知見から、現場で使える視点を2点整理します。
- 双方向のコミュニケーションで施策の意図を確認
人事部の説明を一方的に通達するだけでは、個々人の独自解釈は防げません。「わかっているはず」ではなく、受け止め方を確認しながら対話するアプローチが効果的です。メンバーサイドであれば、上長に意図や背景を確認することも重要なアクションです。 - 古い施策こそ「上書き」が必要
長年続く施策ほど帰属は固まりやすく、マネジメント層自身も同じ呪縛にとらわれがちです。自分がよく知っていると思う施策ほど、一度ほぐし直すアクションが必要でしょう。可能であれば、人事とのディスカッションは直接その意図を確認できますし、上長との対話は、上長が施策をどう捉えているか確認できるよい機会です。
ミドルマネジメントの方々からは、ご自身がきちんと説明された経験がないという話をうかがうことがあります。また、若い世代ほど意図が見えないと行動に移せず、現場からは説明を求められているといった、マネジメントが板挟みになっている実態も耳にします。
自分に経験がないことを実行せねばならないのは、大変難しいことです。だからといって個々人の解釈に委ねてしまうと、その後のマネジメントに苦労する可能性も否めません。本論文はその示唆を与えてくれます。
(合同会社YUGAKUDO 田口光)
