従業員の非行に関する既存研究の振り返り
従業員は、なぜ非倫理的な行動を社内でとってしまうのか。それが顧客や地域社会など外部に影響を及ぼすときには、仮に会社側に一切の非がないとしても、会社としては致命的なダメージを負います。またその対象が社内のメンバーや資産に向かうときにも、やはり会社に深い傷跡を残すことになります。
そうした従業員の非倫理的行動については、1970年代から統計的な分析が行われるようになり、組織として打撃を被るのを未然に防ごうという取り組みがスタートします。北海道大学大学院の山口久瑠実先生の論文「従業員の非倫理的行動に関する定量的研究の動向と課題」では、これまで半世紀以上にわたる従業員の非倫理的行動に関する統計研究の成果が体系的に整理されています。
山口先生の論文内で過去の非倫理行動の研究では(1)非倫理行動を犯す個人の特性把握と(2)個人を非倫理行動に走らせる組織要因の2つが議論されていることを整理しています。研究で対象とされてきたのは以下の表の通りです。

過去の研究ではまず個人の性格や価値観が分析対象となりました。この初期の研究は素朴な、悪い人格が悪い行動をする、という前提に基づいています。その後、職務における感情要因であるとか、日頃の職務態度、あるいは道徳的不活性:道徳が機能しなくなっている常態などにも調査対象が拡げられていきました。
こちらの研究群は、Bad Apple仮説(悪いリンゴはもともと悪いリンゴだった)という考え方に基づくものです。しかし、のちの研究では、個人を非倫理行動に走らせるのは、むしろ組織的な原因なのではないか、というBad Barrel仮説(Barrel:バレル、樽。悪い樽に入っているからリンゴが悪くなる)が提唱されていくようになります。
Bad Barrelの考え方のもと、研究者たちは個人を非行に走らせる組織要因の研究を始めます。その成果として、その組織の風土や文化、会社が保有する制度、他のメンバーによる影響、目標の設定のされ方、リーダーシップのあり方などが分析されてきました。
そして近年、さらに研究は進んでいます。近年の研究では、これらの要素が「複合的に作用するときに非倫理行動がとられる」ことが検証されるようになっているのです(交互作用と言います)。
・もともと性格や価値観にリスクを抱えた個人が、ある種の感情に支配されたとき
・もともと性格や価値観にリスクを抱えた個人が、特定の組織条件のもとにおかれたとき
・組織の風土や文化が土台にあり、その上で不適切なリーダーシップが発揮されたとき 等
ここから、何を学ぶことができるか
これらの研究成果は、組織を非倫理的行動の潜在リスクから回避させるうえで一定の役割を果たします。性格等で問題がありそうだ(会社と相性が悪そうである)という個人の採用を避けること、悪しき感情を社内で持たせないようにするマネジメント、悪事を促進してしまうような社風や目標設定を避けること、不適切なリーダーシップや、非倫理行動を促すような社内メンバーの働きかけに警戒すること……。既存研究に基づけば、それらの対応は確かに会社が非倫理行動を避けるのに効果的だということが統計的に検証されているのです。
これは、会社を守るのみならず、結局は個人を守ることにもつながるという意味で、とても大切なことです。社内で非倫理的行動を犯してしまった個人は、再起をするのにも大変な困難を経験することになります。それを、採用時や、職務の中で、あるいは組織の人間関係の中で止めることができるのであれば、それは会社にとっても個人にとっても望ましい未来だと言うことができるでしょう。その意味で、個人が非倫理行動に走らないマネジメントは、ひとつのミスが個人・組織にとって致命傷となりかねない現代において、いっそう重要性を増していると言えるでしょう。
