革新技術を導入するには「経営トップの注目」と「過去の失敗」 製薬産業調査

革新技術を導入するには「経営トップの注目」と「過去の失敗」 製薬産業調査

馴染みの技術・新しい技術、どっちを選んでる?

革新を目指して外部技術を導入しようとしても、実は知らず知らずのうちに慣れ親しんだ技術ばかり選んでいるという衝撃的な実態があります。IESEビジネススクール(スペイン・バルセロナ)のThomas Klueter先生らのグループは、医薬品業界の膨大なデータを分析し、企業が陥る「現状維持バイアスの罠」を解明しました。さらに、経営陣がどのように介入すれば、現場が未知の技術を受け入れ、真のイノベーションを起こせるのかという具体的な条件を提示しています。

この研究は、企業が外の技術を取り入れるときに「本当に新しいやり方を選んでいるのか、それともいつものやり方に寄っているのか?」ということを実データで検証しました。研究チームは、製薬業界(1995年から2015年)を対象に選び出された715件の外部から取り込んだ技術を対象に、大規模な分析を実施しました。

データ分析による革新への道筋~3つの仮説検証

医薬品産業の大規模データセットから、企業が外部技術を採用する条件について三つの仮説に基づき実証分析を行ないました。

仮説1:慣れた技術を選ぶ傾向
ロジスティック回帰モデルで、馴染み深さ(導入しようとする技術の作用機序が、その企業が過去10年間に同じ疾患領域で手がけたことがあるものかどうか)を説明変数、「外部技術の導入有無」を従属変数として分析を行った結果、馴染み深い技術の選ばれやすさは、未知技術より約31%高く、仮説1は統計的に支持されました。研究開発現場におけるリスク回避傾向は、実務判断に影響を及ぼしているということです。
続く仮説2・3では、企業が新規技術採用に至る条件を検証するため、従属変数を「経験未済技術導入」に設定しています。

仮説2:経営層注目度が高いと新しい技術を選ぶ傾向
年次報告書等で経営陣が特定市場課題に示した関心度を説明変数とし、ロジスティック回帰分析を行った結果、経営層の関心度が1標準偏差上昇すると新規技術導入の起こりやすさが約20%増加することがわかりました。つまり、経営層の注目度が高いと、現場の探索行動も促進されるということです。

仮説3:開発失敗の経験が新しい技術を選ぶ傾向
開発後期(フェーズ3以降)の既存手法失敗経験が過去二年間に何回あったかを説明変数としてロジスティック回帰分析を行った結果、失敗直後は新規技術導入率が大幅に上昇し、失敗事例1件ごとに採用の起こりやすさが約29%増加しました。つまり既存路線の失敗は、組織慣性を打破して、新しい技術を選ぶ機会となっているのです。

この分析結果から、データ上3つの仮説が当たっているということが証明されました。外から良いものを買っても、組織は結局慣れたやり方を選びがちです。しかし、トップがこの課題は重要と注目を示したり、研究開発現場が痛い失敗を経験すると、新しいやり方を受け入れやすくなるということが判明しました。

現場の「知の慣性」を打破する

この研究の知見は、オープンイノベーションを推進するリーダーに具体的な処方箋を与えます。まず、新しい技術を探せという指示だけでは不十分であることを認識すべきです。現場はリスクを嫌い、無意識に馴染みのある解決策を選んでしまうため、リーダーは特定の重要課題に対して深く関与し、現場に従来の延長線上にない探索を促す必要があります。

また、「失敗を革新のチャンスとして再定義することも有効です。既存プロジェクトの失敗は、組織の硬直化した判断基準をリセットし、革新的な外部技術を導入するための窓を開く絶好のタイミングになります。

さらに、技術を提案する側(スタートアップなど)にとって、相手企業の経営陣がどこに注力しているか、あるいは最近どこで失敗したかを把握することは、自社の革新的な提案を通すための重要な戦略となります。組織の「慣性」を理解し、それを逆手に取ることこそが、実務におけるイノベーション成功の近道です。

記事原案 こず

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