3行要約
- 論文は研究者の人生の結晶。学術と実務の溝を埋めるために論文ニュースをはじめた
- 無形資産投資、融合型ビジネスモデル、キャリアアンカーなど、仕事に使える研究はたくさんある
- 読んで終わりにせず、「抽象の横展開」で自分の仕事に当てはめることが大切
「論文なんて、自分の仕事には関係ない」
「読んでみても、どう活かせばいいのかわからない」
そんな風に感じている方は多いのではないでしょうか。
こんにちは、やさしいビジネススクール学長の中川功一です。無料メディア「論文ニュース」が、ついにiOS/Androidアプリになりました。そこで今回は、実際の研究を5本紹介しながら、論文から実務のヒントを引き出す考え方をお伝えします。
論文は人生の結晶!学術と実務の深い溝を埋めたい
「論文ニュース」は、経営学関連の最新論文を、ビジネスパーソンの皆さんにもわかりやすく解説する無料メディアです。Web版はすでに何千人もの方に使っていただいていて、記事も140本ほどになりました。
とはいえ、人生で論文を読んだことがある人は、そう多くないと思います。私がこのメディアを始めたのは、「日本では実務と学術が離れすぎている」という問題意識があるからです。AI、ロボット、宇宙、医療、法律を見てください。今は最新の研究成果がすぐに社会実装されて、科学力の差がそのまま産業競争力の差になる時代なんです。
経営学も同じです。海外で成果を上げた経営手法やM&Aのようなトレンドは、日本には数年遅れて入ってきます。その遅れが、組織マネジメントや事業戦略でも一歩遅れを生んでいる。そういう感覚が私にはあります。
論文というのは、研究者が5年、7年とかけて生み出す人生の結晶です。そこには、学会が妥当性があると太鼓判を押した内容が書かれています。相対性理論も、自由貿易も、裁判員裁判も、自動運転も、心理的安全性も、SWOT分析も、もとをたどれば論文から生まれたんです。そして発表された瞬間から社会の公知になり、誰でも自由に使えて、論評できます。ところが実務の世界では、ほとんど読まれていない。一方で学術界にも、実務家が知りたいことに答える研究は多くありません。学者としてあえて言いますけど、今の書き方と届け方のままでは、我々は自滅しますよ。
だから論文ニュースでは、二つの方向をつなぎたいんです。
- 学術から実務へ:研究成果をいち早く、わかりやすい形で届ける
- 実務から学術へ:皆さんが記事にコメントすることで、その声を研究者に直接届ける
アプリにしたのも、そのためです。皆さん、スマホにニュースアプリの一つや二つは入れていますよね。何気なく見るニュースの一つに、論文ニュースも加えてもらえたら嬉しいです。
使わない手はない!仕事に効く注目の研究5選
では、論文をどう活かせばいいのか。論文ニュースの記事から、私が注目している研究を5本選んできました。
1. コストの正体は「無形資産投資」
まずは日本の上場企業のデータを分析した研究です。人件費・販管費・研究開発費の比率が高い会社は、単年度で見ると利益率が下がります。ところが長期で見ると、成長率も稼いだ利益の総額も大きく、株価も高かったんです。
会計上、これらは「費用」です。でも実態は、人材や技術知識、販売能力、ブランドへの投資だと考えた方がいい。もちろん中身の精査は必要ですが、短期の利益を多少圧迫しても、正しくお金を投じることが企業価値を高める。超いい研究だと思いませんか。
2. 一番儲かるのは「融合型」ビジネスモデル
次は、ビジネスモデル研究の第一人者、早稲田大学の井上達彦先生らの研究です。企業を「展開する市場の数」と「ビジネスモデルのパターン数」で、「特化型」「融合型」「横展開型」「多角化型」の4類型に分けて、どれが一番儲かるかを調べたんですね。皆さん、どれだと思いますか。
収益性が最も高かったのは、市場を絞りながら複数のビジネスモデルを持つ「融合型」でした。たとえば人材ビジネスで、派遣先のお客様に研修や人事制度のコンサルも提供する。すでにがっちり掴んでいる顧客やブランド、営業資産を活かせるので、一人のお客様から1件、2件、3件と受注できるわけです。
面白いのは、株主が期待しがちなのが「横展開型」だという点です。勝ちパターンを別の市場にも広げていく形ですね。でも新しい市場では顧客開拓からやり直しで、ブランドも通用するとは限らない。だから実際には、うまくいきにくいんです。理屈が立っていて、しかも実証されている。使わない手はありません。
3. 顧客も従業員も幸せにする「トランスフォーマティブサービス」
3つ目は、私が大好きな関西大学の横山恵子先生の研究です。トランスフォーマティブサービスとは、お客様に変革をもたらすサービスのことです。美容室なら、髪を整えて終わりではありません。その人の自己肯定感を高めて、今まで開けていなかった扉を開けてあげる。そこまでやるのがトランスフォーマティブサービスです。
その設計には、次の3つが大切だそうです。
- お客様に選択を促す
- その意思決定を助ける対話をする
- 選択の結果を可視化する
この3つを通じて、お客様の自己認識が深まります。自分が幸せになるために何が必要かを知るんですね。そして「これは私が決めた道だ」と実感でき、幸福度が上がります。従業員も「今日、あの人の人生に良い影響を与えられた」と思える。双方のウェルビーイングが高まるんです。この言葉も、論文に触れなければ一生知らなかったかもしれません。日本社会に広まるのは、おそらく3年後、5年後でしょう。
4. 日本人の「働く軸」は7因子
4つ目は、筑波大学の研究グループが日本人数千人を調べた研究です。働く動機は世界的には9種類と言われてきましたが、日本人では7つの因子に整理できる。それをデータで検証したんです。自分がどれに当たるか、考えながら読んでみてください。
- 挑戦・創造性
- 起業家性(大きなことを成し遂げる)
- 保障・安定
- 全般管理コンピタンス(物事をきちんと管理して回す)
- 奉仕・社会貢献
- 生活様式(ワークライフバランス)
- 専門・職能別コンピタンス
学術用語ではこれを「キャリア・アンカー」と呼びます。アンカーは船の錨。波に揺られてもぶれない、働く軸のことです。自分の軸がわかれば、キャリアを選びやすくなります。会社にとっても、社員が力を発揮できる職務環境を設計しやすくなるんです。
【中川こぼれ話】
私自身は「起業家性」がメインです。こうしてアプリを世に出せたり、YouTubeを始めたりと、何かを成し遂げた瞬間が一番の喜びです。学者時代も、国際ジャーナルに論文が載ったときや、国際学会のチェアを務めたときにやりがいを感じていました。サブは「専門・職能別コンピタンス」と「奉仕・社会貢献」。皆さんはどれでしたか?
5. 資本主義の隙間を埋める協同組合
最後は、米国のトップジャーナルに載った情報通信分野の研究です。民間企業が採算を取れずカバーできない地域を、協同組合が補うようになっている。利益ベースの仕組みだけでは、社会インフラを維持できなくなりつつあるんです。
ただし組合の運営には課題があります。メンバーの文化や価値観が多様なほど、意思決定のコストが上がる。ポスト資本主義の社会がどうなるのか。考えさせられる、いい研究です。
読んで終わりにするな!論文を力に変える「抽象の横展開」
ここまで5本紹介してきましたが、一番伝えたいのは論文の「読み方」です。同じ研究でも、問題意識を持っている人には、これからの社会を考える大きなヒントになります。でもぼんやり読むと「アメリカでは協同組合が増えているらしい」で終わってしまう。研究から何を考えられるかは、今の自分の思考力を測るバロメーターなんです。
そこで私がおすすめしたいのが、「抽象の横展開」です。
- 研究成果を読む
- そこから一般化した命題を取り出す。「つまり何が言えるのか」を考える
- その命題を自分の仕事に当てはめる
大事なのは、論文を完璧に理解することではありません。考えるきっかけ、ヒントを拾うことだけに集中する。自分の仕事に活かせるかどうか、それがすべてです。

皆さん、ネット記事は1、2分で読んで、すぐ次にすすみますよね。でも、そこで立ち止まってほしいんです。正直に言うと、今日私がやってみせたような読み解きは、一人でやろうとすると難しい。私も準備したからできたんです。本質は何かを味わってから次に進む。この習慣があるかどうかが、分かれ目になります。
すぐに仕事が目に見えて変わるわけではありません。それでも、あなたの視座や視界は大きく変わってきます。これからの管理職やエグゼクティブには、職場を上手に回す以上の見識が求められます。何が公平で、何が正義か。資本主義はこれからどうあるべきか。多国籍のチームでも、地方の職場でも同じです。こうした問いに言葉を濁さず、自分の見解を示せること。それが今のリーダーに求められている姿勢だと思うんです。
今日から始める「立ち止まる1分」
論文の知見そのものをよく味わってほしい。そしてそこから一般化し、抽象化して、考える力を高めていってほしい。そのために、今日からできることを3つ挙げます。
- 毎朝1本、論文ニュースを読む:通勤中の1、2分で十分です
- 読んだら立ち止まる:「つまり何が言えるのか」を一言でまとめてみる
- 自分の仕事に当てはめる:「うちの職場ならどうなるか」を考えてみる
論文は、読むだけでなく『考える』ことで初めて自分の力になります。その一歩を、今日から一緒に始めましょう。
(執筆:論文ニュース編集部)
※本記事は、やさしいビジネススクールYouTubeライブ(9/8)での講義内容を基に構成・編集したものです。全編は下記から動画でご覧いただけます。
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