ことばから読み解く、南三陸町復興の軌跡
震災からの復興を支える真の力は、人々の会話の中に隠されていました。
論文「震災復興のディスコース分析―アイデンティティの言説的構成とレジリエンス―」は、西南学院大学の清宮徹先生が東日本大震災後の南三陸町で5年間にわたる現地調査を行った研究です。21名に対する計38回のインタビューを通じて、人々の言葉がどのように自分たちは何者かという自己定義を変化させ、震災後の復興の原動力になったのかを分析しました。
分析には、ディスコース研究を用いました。ディスコースとは、単なる言葉のやり取りではなく、人間関係やその場の空気、社会の背景までを含み、現実を創り出すコミュニケーションの全体像のことです。このコミュニケーションで使われたことばから、社会の状況がどのようなものか、良いのか悪いのか、幸福なのか不幸なのか、どのように変化してきたかを分析するのがディスコース研究です。
復興を形造った3つの言葉の連鎖
本論文では、インタビューからとらえた震災から5年間の歩みを、以下の3つの語りの連鎖として整理しています。
(1) 喪失:沈黙から絆へ
震災直後、人々はすべてを失ったという深い喪失感に包まれました。今まであった日常の関係性を失ったことについての語りや落胆、嘆き、そして沈黙。このすべてを失ったという言葉は、一時的に人々を被災者という枠組みに留めましたが、同時に外部からの支援を呼び込む強いパワーとなりました。日本全体で被災地を支えようという絆のことばが形成され、支援の輪が広がりました。
(2) 感謝と恩返しのことば:被害者から自律した個人へ
外部からの支援に対し、人々がありがとう、恩を返したいと口にするプロセスです。この感謝と恩返しの言語化こそが、被災者を助けられるだけの被害者という役割から解放しました。自らの意志で立ち上がる力、レジリエンスへと転換される重要なステップです。
(3) 利他的なことば:個から組織へ
自分の店のためだけでなく、町全体のためにという公の視点を持った言葉です。たとえば、ライバル関係にあるはずの飲食店主たちが協力して名物キラキラ丼を開発した事例が象徴的です。こうした利他的な発信が、損得勘定を超えた信頼関係とネットワークを築き、復興を一気に加速させました。
自己定義はどう変容したか
ことばの変化から、人々の自分たちは何者かという自己定義が時間の経過とともに変化していくことも確認されました。震災直後の喪失期では、被災した当事者たちは震災の犠牲者と認識していました。しかし復興期に入ると、 感謝や自律を経て、未来を創る当事者として自らを変化させています。
言葉が変化することで、絶望の中にいた人々が、新しい町を担う主体へと書き換えられ、復興のパワーとなっていったのです。
困難を乗り越える言葉のマネジメント
本論文の知見は、企業の危機管理や変革期の組織開発にも応用できる強力な武器になります。
- 被害者意識からの脱却を促す
経営危機やプロジェクトの失敗に直面した際、メンバーが自分たちは被害者だという思考に陥ることがあります。リーダーは、支援をしてくれるステークホルダーへの感謝や社会への貢献(恩返し)を共通言語に据えることで、沈滞したムードを能動的な回復力へと変容させる必要があります。
- 全体最適の言葉で壁を壊す
南三陸町の事例のように、リーダーが私利私欲を捨てて組織全体・社会全体の利益を語り、行動に移すことで、部門間の壁を超えた信頼が生まれます。これは、オープンイノベーションや組織横断的なプロジェクトを成功させる鍵となります。
自分たちは社会にどう貢献できるだろうか。 困難な時こそ、この問いを語り合い、具体的な行動に結びつけることが重要です。言葉には、組織の未来を創り出す力があるのです。
記事原案 新谷志津乃
