216品番の比較で、共創の商品が上回った
店頭に立つ販売員が発案し、開発部門と組んで作った服は、企画部門だけで作った服よりも売れていました。アイデアの新しさや戦略上の重要性の評価でも、上回っています。ユナイテッドアローズの主力ブランドで、216品番を比べた結果です。
法政大学の渡邉裕也先生と西川英彦先生は、論文「Innovation by Retail Store Salespersons: A Co-Creation Project in United Arrows(小売店舗販売員によるイノベーション ― ユナイテッドアローズの共創プロジェクト ―)」で、この取り組みを報告しています。渡邉先生は、ユナイテッドアローズでこのブランドの商品部長を務める当事者でもあります。
舞台は、グリーンレーベル リラクシングです。季節と流行の動きが速い一方、企画から発売までに3〜6か月かかります。いま売れているものをなぞるだけでは間に合わず、半歩から一歩先を読む必要があります。デザイナーはPOSデータや販売員の情報で補ってきましたが、開発責任者は限界を感じます。そこで2018年に始めたのが、販売員のアイデアから商品をつくる「共創プロジェクト」です。
全店の販売員およそ700人にアイデアを募ると、1回あたり40〜60件が集まります。商品開発部門と営業部門が新規性や顧客価値などで採点し、10〜20件に絞って2〜3件を商品化します。チームは発案者と、似たアイデアを出した販売員3〜4人、商品開発部門の3〜4人。月1〜2回、計3〜4回のワークショップで素材やデザインを詰めます。
成果を確かめたのは、2019年夏物の比較です。共創の10品番と、企画開発の担当者だけで作った206品番、計216品番の実売データと、上司2人のアイデア評価を分析しました。共創で生まれた商品は、販売数量でも販売金額でも、アイデアの新規性と戦略的重要性の評価でも、担当者だけの商品を有意に上回っていました。
発案者の性質も効いていました。トレンドの先を行き、既存の商品に不満があり、それを解決できれば自分にも得がある。こうしたリードユーザー性の強い人のアイデアほど、売上も評価も高くなりました。
販売員16人への聞き取りでは、この性質に加えて、接客で得た顧客のニーズと自分の欲しいものを重ねられること、開発部門の支援でやる気が高まることが挙がりました。
2018年の開始から2024年までに46商品が生まれ、秋冬向けの素材を夏の終わりに出したベロアのTシャツは定番の品ぞろえに入りました。ただし、1社1ブランドの事例です。数字で比べたのは2019年夏の一シーズン、共創の商品は10品番にとどまります。
現場の案は、募り方と進め方で決まる
論文が最後に置くのは、販売員を、会社のイノベーションに貢献する経営資源として見直そうという呼びかけです。顧客と近いところで働く人は、どの会社にもいます。営業、サポート窓口、店舗、工場。その人たちを、情報を上げる側ではなく、案を出す側として扱えているか。
案を集める仕組みは、たいていの会社にあります。提案制度、改善提案、社内公募。回らない原因は、意欲ではなく募り方かもしれません。応募で求めたのは、自分が着たい服と、その時期だけです。売上目標や客層を条件に加えると、すでに見えているニーズに寄ってしまうからです。様式も、イメージと理由だけを書く形です。自社の提案書式が、市場規模や採算の記入を最初から求めていないか。そこで落ちる案がありそうです。
もう一つは、通った案の扱いです。決定権は発案した販売員が持ち、専門部署は知識で支える側に回ります。論文では、開発部門の意見が強すぎると、実現できるのかと問うたり、過去の失敗と同じだと見なしたりして、アイデアの持ち味が削られると指摘されています。案を採用したあと、担当を専門部署に移していないでしょうか。この会社では、売り方を考えるのも発案者たちで、発売後も販売期間が終わるまで責任を持ちます。
忙しい現場から時間を取る工夫も要ります。ワークショップは回数と時間を絞り、次の議題を前もって共有して、事前に話し合っておく。会議を増やさず、関与だけを保つやり方です。
販売員は、接客をする人であり、流行にいち早く触れている人でもありました。その立場から出た案が、専門部署だけの案より売れる。現場を情報の出し先ではなく、案の出どころとして扱えているか。問われているのは、そこです。
記事原案 藤本ゆう子
