文化の違いが管理者と従業員のズレを生む 日系海外子会社調査

文化の違いが管理者と従業員のズレを生む 日系海外子会社調査

なぜ同じ従業員を見ても評価が真逆になるのか

なぜ、海外拠点では、同じ現地従業員を見ているはずの日本人駐在管理者の評価が、ある人は「責任感がない」、別の人は「カイゼンに積極的な従業員だ」と正反対になるのでしょうか?

中京大学の弘中 史子先生と同大学の寺澤 朝子先生の研究は、この疑問を解くカギに迫りました。この研究では、中小製造業のマレーシア拠点を対象に、日本人駐在管理者と現地従業員のコミュニケーションを分析し、両者の認識や評価が大きく異なる背景を明らかにし、スキーマとメタ認知によるものだと結論付けています。

弘中先生たちの研究では、「スキーマ」と「メタ認知」の概念を適用しました。
スキーマとは、ある人が生まれた国や土地の文化、思考の術となる言語による影響、家族や出会った人間関係において積み重ねた経験をもとに構築した、その人独自の体系のことです。人は自らのスキーマに基づいて状況を理解し、解釈し、行動します。
メタ認知とは、自分の認知を認知することーつまり、物事をどう理解しているか、どう考えているかを一段高い視点から振り返ることを指します。

すなわち、日本の自文化スキーマを保持している日本人駐在管理者は、海外生産拠点の運営に際して、自文化スキーマが通用しないことを経験し、現地従業員の持つ異文化スキーマを理解する必要があることに気づきます。そして自文化スキーマを相対化することーメタ認知を通じて、拠点の現状を理解し、現地従業員とのコミュニケーションを工夫することで、適切なマネジメントのあり方を模索するようになるのですが、このメタ認知がうまく働かない場合には、管理者と従業員間で溝ができたままになり、組織体としての運営も精彩を欠くようになる懸念があります。

研究方法

本研究では、マレーシアに拠点を持つ中小企業を対象に、以下の調査・分析を行いました。

■調査内容
・インタビュー調査(10社、2014~2017年、日本人駐在管理者)
・アンケート調査(9社、2017年、日本人駐在管理者23名・現地従業員220名)

■分析方法
・定量分析(アンケート調査を定量的にまとめる)
・定性分析(管理者の発言の精査を行う)

主な発見

この結果、日本人管理者と現地従業員間では認識に大きな違いがあることが明らかになりました。

■日本人管理者とマレーシアの現地従業員の主な違い
①例えば、日本人の管理者は「対面でのコミュニケーション頻度が高く、メールやテキスト、電話といった非対面のコミュニケーションを控えている」と認識している一方で、現地従業員はそのように思っていないということです。
②また、職場での調整、協力の程度、知識のシェアについて、現地従業員たちは「理解している」と考えているが、 日本人駐在管理者はそう考えていないこともわかりました。

■メタ認知とマネジメントの質の相関
このような認識のズレはどこから来るのでしょうか?
ここで、日本人管理者が自文化スキーマを相対化し、現地文化スキーマを理解する=「メタ認知」を獲得することの重要性に着目しています。

インタビューでの発言例

メタ認知がないと思われる日本人管理者メタ認知があると思われる日本人管理者
手続きスキーマ=ある作業や職務をどのような手順で行うか?という理解の枠組み現地従業員には手取り足取り教える必要がある。プライドの高い現地従業員はミスを報告しない。改善意識が低い。5 S に皆で取り組んでいる。みんなで草むしりや掃除をする。部署間で生産高や不良率を競争し、モラルアップ・カイゼンができている。
役割スキーマ=組織の中で誰がどの役割を担うべきか?という理解の枠組み(現地従業員は)遅刻することが多く、無断欠勤も多い。転職率が高い。プレッシャーに弱く、責任を取りたがらない。マネジャークラスは5 年以上勤めるとまずやめることはない。(現地従業員が)自発的に研修内容を考えている。
言語スキーマ=言語を通じてどのように意味を理解し、伝えるか?という理解の枠組み現地の言葉で取引先や従業員と話せるローカルトップが必要。言葉の壁が大きく、通訳を入れると逆に真意が伝わらないことがある。日本人とは必要以外に口をきかない。従業員が個人的な悩みを相談してくる。今起こっている問題、何をすべきなのかを、みなで話して解決策を考えており、(日本人駐在管理者が)解決に向けて主導しているという感じではない。

日本人管理者が英語力や現地語に不安を持ちながら、対面だけで伝えようとすることで認識の差が拡大してしまうのは言語スキーマに由来しますし、現地従業員が「自分の仕事はやっている」と思っているが、日本人管理者は「協力が足りない」と感じる ― このズレは役割スキーマの違いに由来します。

発展的調査

これらの結果に基づき、日本人管理者がメタ認知を獲得している(異文化スキーマを取り入れている)場合と、そうでない場合に、部下である現地従業員にどのような歳が出るのかの比較も行っています。
アンケートの結果、統計的に有意な差は認められなかったものの、メタ認知を獲得している管理者の下で働く現地従業員の方が「チームメンバーはしばしば互いに協力して仕事を調整しながら進める必要がある」「私は進んで仕事に関する知識を同僚に教えるようにしている」「職場で期待されている同僚と協力すべき内容について明白に理解している。」といった各設問で、高いスコアを示していました。
結果的に、メタ認知を持つ管理者の下では、現地従業員が”カイゼン”や協力的行動を自発的に行い、職務満足度や会社への信頼感も高いことが示唆されました。

まとめと実務的示唆

職務に関する認識が異なる国においては、現地従業員とのコミュニケーション不足を解消・ミスコミュニケーションを減らすために、「手続きスキーマ」「役割スキーマ」「言語スキーマ」における日本人駐在管理者のメタ認知獲得が重要となります。異国の地でのマネジメントにこれらの能力が必要であることが示されたため、もちろん海外進出時には有効な施策となりうるでしょう。ただ、もしかするとこのスキーマとメタ認知、異文化理解だけではなくて、普段のマネジメントをうまくおこなうコツなのかもしれません。ぜひ一度考えてみてはいかがでしょうか。
記事原案 こず

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