日本は環境役員不足?専任体制が示す経営の信頼性
地球温暖化などの環境問題は、今や企業の存続を左右する重要な経営課題です。
中部大学の藤井辰朗先生は、論文「企業における環境対策部署および環境担当役員の設置と企業価値に関する一考察」で日本企業における環境対策の専任部署や環境担当役員の設置が、実際の財務指標やリスク管理にどのような影響を与えるのかを分析しました。単なる義務としての対応を超え、環境対策をいかに長期的な企業価値向上へとつなげるべきか、そのヒントが明らかになります。
データから見える環境経営の現在地
環境対策の組織体制や環境性指標に関するデータとして、CSRデータベース 2021年版を使用し、財務データについては日経Value Searchから取得しています。調査対象を東証一部上場企業を中心とした1,192社に限定した理由は、主に財務面での一貫性を保つためです。未上場企業は上場企業と比べて財務状況の差が大きく、データの取得自体も困難という背景があります。
この研究では「組織としてどれだけ環境経営にリソースを割いているか」という実態を環境経営の関心度を測る客観的な指標としています。具体的には、「専任部署・専任役員」「部署なし・役員なし」といった8つのグループに分けました。そこから見えてきたのは、日本企業の約80%が環境対策の部署を持っていますが、専任部署は45.1%、担当者が兼任で対応している企業は64.7%、専任役員は4.5%にとどまります。海外企業ではサステナビリティ(持続可能性)や環境対策を一括して管理・推進する担当責任者の専任率が48%あり、日本は経営層レベルの専任体制が遅れているということになります。
環境対策を重視する企業に見られる特徴とは
では環境経営への関心度の高さは、企業の価値にどれくらい影響するのでしょうか。
8つのグループで示される環境経営への関心度に対して、環境指標の公表率、環境効率の改善度合い、企業価値への影響、法令順守との関連を比較することで、環境対策に力を入れている企業には以下のような特徴がみられることが分かりました。
- 環境情報の公開率が圧倒的に高い
温室効果ガス排出量や水資源投入量などの環境性指標を公表する割合が非常に高く、情報の透明性が確保されています。一方、部署も役員もない企業では、情報の公開はほとんど進んでいません。 - 環境効率が着実に改善している
環境経営に積極的な企業は、売上高に対する資源の使用量を抑える環境効率の改善が多くの項目で確認されました。 - 法令違反などの悪い情報も誠実に公開する
環境経営に熱心な企業ほど、環境関連の法令違反があった場合の申告率も高い傾向にあります。これは不祥事を隠さず、高い責任感を持って情報開示をおこなっているということです。
では、その結果として、環境経営は企業の財務成果にどういう影響があったのでしょうか。研究からは、以下のことが分かりました。
- 短期的には利益・売上との相関は見られない
環境指標と売上高や利益の増加の統計的な相関は認められませんでした。 - 将来の不確実性(リスク)は低減している
環境経営に積極的な企業は、売上高や企業価値、時価総額の変動幅が小さい傾向があり、環境への取り組みは将来の業績リスクを抑える効果があるといえます。
環境対策に関する関心の度合いが高いことで、環境負荷を減らすだけではなく、それはリスク管理という形で財務に貢献し、投資家に対する信頼のシグナルとしても機能しているのです。
環境を企業価値向上の戦略へ
環境関連の専任部署設置・専任役員の配置は、企業価値の持続的向上に資する長期的戦略として位置付けられます。
- 専任部署の設置は、それ自体コストを伴う施策であるがゆえに、企業が環境に本気で取り組んでいることを社内外に示す信頼性指標となります。
- 環境経営を中核とすることにより、将来的な業績の揺れを小さくして企業価値や株主価値を安定させることが期待できます。
- 環境対策は短期的には利益に直結しないものの、長期的な目で見れば不確実性の高いリスクへの抑制効果が見込まれます。
地球規模課題である環境問題への対応は、ステークホルダーからの信頼獲得を通じて企業価値向上に寄与するため、今後の経営戦略上不可欠な要素と言えるでしょう。
記事原案 新谷志津乃
