【センサリーマーケティング】五感をビジネスに活かす効果・事例を論文で解説

【センサリーマーケティング】五感をビジネスに活かす効果・事例を論文で解説

センサリーマーケティングとは、視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚という五感に働きかけ、消費者の知覚・判断・行動に影響を与えるマーケティング手法です。日本語では五感マーケティングや感覚マーケティングとも呼ばれます。

西武、ローソンなどの小売大手10社へのインタビューによると、有力企業のトップ層は五感への配慮が売上に対して5%〜10%程度の影響を与えていると認識され、実践されています。

価格や機能だけでは差別化しにくい現代のビジネスでは、香り、音、空間デザイン、手触り、味といった感覚情報を設計し、顧客体験やブランド記憶を高めることが重要になっています。

本記事では、センサリーマーケティングの仕組み、五感をビジネスに活かす方法、柔軟剤の香り見本などの身近な事例、導入時の注意点を論文をもとに解説します。

センサリーマーケティングとは何か

センサリーマーケティングとは、消費者の感覚に働きかけることで、知覚・判断・行動に影響を与えるマーケティングです。

従来のマーケティングでは、商品の機能、価格、品質、ブランドストーリーなど、言葉や数字で説明できる情報が重視されてきました。もちろん、それらは今でも重要です。しかし、消費者は常に論理的に比較検討して購買しているわけではありません。

パン屋の前を通ったときに、焼きたての香りに誘われて入店する。
高級ホテルのロビーに入った瞬間、照明や香り、音の静けさからここは上質な空間だと感じる。
アパレルショップで、服の素材に触れた瞬間にこれは良さそうだと思う。

こうした判断は、スペック表を読んでから起きているのではありません。五感を通じた刺激が、言葉になる前に快・不快、安心・不安、高級そう・安っぽい、楽しそう・退屈そうといった印象をつくっています。

つまり、センサリーマーケティングは、消費者が頭で考える前に生じる直感的な評価を設計するマーケティングだと言えます。

センサリーマーケティング・五感マーケティング・感覚マーケティングの違い

センサリーマーケティングを検索する人は、五感マーケティングや感覚マーケティングという言葉でも情報を探すことがあります。基本的には近い意味で使われますが、使われる文脈には少し違いがあります。

用語意味使われる文脈ニュアンス
センサリーマーケティング消費者の感覚に働きかけ、知覚・判断・行動に影響を与えるマーケティング学術論文、マーケティング研究、企業戦略研究領域としての正式名称に近い
五感マーケティング視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚を活用するマーケティング一般向け記事、実務解説、店舗改善わかりやすく、直感的に伝わりやすい
感覚マーケティング感覚刺激を用いたマーケティング全般日本語の学術論文、店舗空間研究センサリーマーケティングの訳語として使われやすい

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なぜ今、センサリーマーケティングが重要なのか

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センサリーマーケティングが注目される背景には、大きく3つの理由があります。

1. 価格や機能だけでは差別化しにくくなった

多くの商品・サービスは、品質が一定水準まで高まり、機能面だけでは違いが伝わりにくくなっています。

たとえば、コンビニ、ドラッグストア、アパレル、飲食店、ホテル、美容室などでは、商品やサービスそのものの品質だけでなく、その場にいるときの気分やブランドらしさが購買に大きく影響します。

同じコーヒーでも、無機質な場所で飲むのか、香り・照明・音楽・内装が整ったカフェで飲むのかによって、顧客が感じる価値は変わります。商品そのものに大きな差がなくても、五感を通じた体験設計によって、価格以上の価値を感じてもらうことができます。

2. 顧客体験がブランドの差別化要因になっている

現代の消費者は、単に商品を買っているのではなく、体験を買っています。

小売店舗であれば、入店した瞬間の印象、店内の歩きやすさ、BGMのテンポ、商品の見やすさ、香り、スタッフの声のトーン、商品の手触りなど、すべてが顧客体験を構成します。

センサリーマーケティングは店舗空間やインストア・マーケティングと深く関係しているため、顧客経験を設計するうえでの重要な要素です。

3. 経営者も売上への影響を実感している

石井裕明・平木いくみ・外川拓・恩藏直人らの研究では、国内の有力小売企業10社の経営者や経営幹部に対して、五感訴求に関するインタビューを行っています。

【引用】
顧客が自分自身で気づいていないニーズに気付かせるのが五感の役割

出典:石井裕明・平木いくみ・外川拓・恩藏直人
小売企業の経営者はセンサリー・マーケティングをどう考えているのか?
マーケティングジャーナル 45巻2号、2025年
引用元を見る:https://www.jstage.jst.go.jp/article/marketing/45/2/45_2025.020/_article/-char/ja/

その結果、多くの経営者がセンサリーマーケティングの重要性を認識しており、五感を意識した売場づくりが売上やブランドイメージに影響すると考えていることが示されています。

特に印象的なのが、五感を意識した売場とそうでない売場では売上に5〜10%の差が出るだろうという発言です。これは厳密な実験値ではなく実務家の認識ではありますが、現場の経営者が五感への配慮を成果に関わる要素として捉えていることを示しています。

センサリーマーケティングの基本メカニズム

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センサリーマーケティングが効果を持つ理由は、五感が消費者の無意識的な判断に影響するからです。

人は買い物をするとき、必ずしも価格、機能、品質を冷静に比較しているわけではありません。むしろ、第一印象、空間の心地よさ、商品を手に取ったときの感触、店内のにおい、BGMによって生まれる気分が、購買判断の土台になります。

視覚:第一印象とブランドイメージをつくる

視覚は、店舗や商品の印象形成に大きな影響を与えます。色、照明、陳列、パッケージ、ロゴ、空間デザインなどは、消費者が高級そう、親しみやすい、清潔そう、楽しそうと判断する手がかりになります。

たとえば、高級ブランドでは、余白の多い陳列、落ち着いた照明、重厚感のある什器が使われます。一方、ディスカウントストアでは、にぎやかなPOP、大量陳列、明るい照明によって安さや活気を演出します。

どちらが正解というわけではありません。重要なのは、ブランドの狙いと視覚情報が一致していることです。

聴覚:滞在時間や購買気分に影響する

BGMや環境音は、顧客の滞在時間、歩くスピード、気分に影響します。

たとえば、スローテンポのBGMは、顧客の移動スピードをゆるめ、滞在時間を長くする可能性があります。一方で、回転率を重視する飲食店や、活気を演出したい店舗では、アップテンポな音楽が適している場合もあります。

また、音はブランド記憶にもつながります。決済音、起動音、通知音、店内アナウンスの声などは、短い音であってもブランドを想起させる要素になります。

嗅覚:記憶と感情に強く働きかける

嗅覚は、五感の中でも記憶や感情と結びつきやすい感覚です。

パン屋の焼きたての香り、コーヒーショップの焙煎香、ホテルのロビーに漂う独自の香りなどは、顧客にまた来たいと思わせるきっかけになります。

香りは、商品そのものに由来する場合もあれば、空間演出として設計される場合もあります。たとえば、食品や飲料では食欲を刺激する香りが有効ですが、ホテルやサロンではリラックス感や清潔感を高める香りが重要になります。

触覚:品質感や安心感を伝える

商品や什器、パッケージの手触りも、消費者の評価に影響します。

高級ブランドの紙袋が厚く、しっかりしているのは、単に丈夫にするためだけではありません。重みや質感を通じて、高級感、信頼感、上質さを伝えているのです。

アパレルでは、生地に触れた瞬間に品質を判断されます。家具店では、椅子の座り心地やテーブルの手触りが購買判断に直結します。ECでは触覚を直接伝えられないため、素材の拡大写真、動画、レビュー、擬音語・擬態語を使った説明が重要になります。

味覚:体験価値を直接的に伝える

食品・飲料・飲食店では、味覚が購買判断の中心になります。

試食や試飲は、味覚を通じて商品の価値を直接体験してもらう施策です。特に新商品や高価格帯の商品では、買って失敗したくないという不安を下げる効果があります。

味覚は単独で働くのではなく、見た目、香り、温度、食感、音とも結びついています。たとえば、同じ飲み物でも、パッケージの色やグラスの形、注がれる音によって、味の感じ方が変わることがあります。

関連論文から見るセンサリーマーケティングの実務ポイント

ここからは、センサリーマーケティングに関する複数の論文・研究をもとに、実務で使えるポイントを整理します。

論文1:店舗空間における感覚マーケティング

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石井裕明・平木いくみ店舗空間における感覚マーケティング(2016)では、小売店舗における感覚マーケティングの研究動向が整理されています。

この論文で重要なのは、単に良い香りを使えばよい、おしゃれなBGMを流せばよいという話ではなく、感覚刺激には適合性が必要だと指摘している点です。

適合性には、大きく3つあります。

適合性の種類意味実務での例
感覚刺激間の適合性視覚・音・香り・触感などが矛盾していないこと高級感のある内装なのに、BGMが騒がしすぎると違和感が出る
店舗・製品特性との適合性ブランドや商品特性に合った感覚刺激であること自然派コスメなら、強すぎる人工的な香りよりも自然な香りが合う
消費者特性との適合性ターゲット顧客の年齢・目的・心理状態に合っていること若年層向け店舗とシニア向け店舗では、音量や照明の最適値が異なる

つまり、センサリーマーケティングで重要なのは、五感を刺激することではなく、誰に、何を、どのような状態で感じてもらいたいのかを設計することです。

【引用】
感覚刺激間の適合性,店舗・製品特性と感覚刺激の適合性,消費者特性と感覚刺激の適合性

出典:石井裕明・平木いくみ
店舗空間における感覚マーケティング
マーケティングジャーナル 35巻4号、2016年
引用元を見る:https://www.jstage.jst.go.jp/article/marketing/35/4/35_2016.015/_article/-char/ja/

論文2:小売企業の経営者はセンサリーマーケティングをどう考えているのか

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石井裕明・平木いくみ・外川拓・恩藏直人の小売企業の経営者はセンサリー・マーケティングをどう考えているのか?(2025)では、有力小売企業10社の経営者・経営幹部に対するインタビューから、企業側が五感訴求をどう捉えているのかが検討されています。

この研究から、実務上は次のような示唆が得られます。

1つ目は、五感訴求は現場任せではなく、経営レベルのテーマになり得るということです。店舗の照明、音、香り、什器、陳列は、単なる店舗運営の細部ではなく、ブランド価値や売上に影響する戦略要素です。

2つ目は、五感訴求の効果は数値化が難しいものの、経営者は一定の成果感を持っているということです。売場の雰囲気や感覚設計は、広告のクリック率のように単純には測れません。しかし、滞在時間、購買率、客単価、再来店意向、ブランド好意度などを組み合わせることで、実務上の効果測定は可能です。

3つ目は、五感訴求を成功させるには、全社的な意識共有が必要だということです。経営者だけが重要性を理解していても、現場スタッフが実行できなければ意味がありません。逆に、現場の感覚に任せきりにすると、店舗ごとのばらつきが大きくなり、ブランド体験が不安定になります。

論文3:ワークマンに見る「見せ方」の変化

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王黎黎・速水建吾・恩藏直人の見せ方の変化とアンバサダーの起用による市場開拓戦略(2021)では、ワークマンが作業服市場で培った高機能・低価格の商品を活かしながら、アウトドアウェア市場を開拓した事例が紹介されています。

ワークマンの事例で重要なのは、商品そのものをゼロから作り直したのではなく、見せ方を変えたことです。従来の作業服としての陳列ではなく、アウトドアショップのような売場づくりを行うことで、これまでワークマンに関心を持っていなかった顧客にも価値が伝わるようになりました。

これは、センサリーマーケティングの実務において非常に重要な示唆です。

同じ商品でも、見せ方が変われば、顧客の知覚は変わります。
同じ機能でも、売場の照明や陳列が変われば、用途のイメージが変わります。
同じ価格でも、空間演出が変われば、安いのではなくコスパが良いと感じられます。

つまり、センサリーマーケティングは、新商品開発だけでなく、既存商品の再定義や新市場開拓にも使えるのです。

【引用】
見せ方の変化とアンバサダーの起用

出典:王黎黎・速水建吾・恩藏直人
見せ方の変化とアンバサダーの起用による市場開拓戦略
マーケティングジャーナル 41巻1号、2021年
引用元を見る:https://www.jstage.jst.go.jp/article/marketing/41/1/41_2021.037/_html/-char/ja

具体事例で見るセンサリーマーケティング

事例1:柔軟剤の香り見本

ドラッグストアの柔軟剤売り場にある香り見本は、非常に身近なセンサリーマーケティングの例です。

柔軟剤は、購入前に実際の使用感を完全には確認しにくい商品です。買ってから香りが強すぎた、好みではなかったと感じても、しばらく使い続けなければなりません。そのため、消費者には購入前の不安があります。

そこで香り見本があると、顧客は購入前に香りを確認できます。これにより、失敗したくないという心理的ハードルが下がります。

さらに、香りを嗅いだ瞬間に、洗いたての服、部屋干し後の香り、家族の衣類、清潔な暮らしといった使用シーンが想起されます。これは、単なる機能説明ではなく、未来の生活イメージを五感で体験させている状態です。

事例2:パン屋・カフェの香り

パン屋の前を通ると、焼きたての香りに誘われて入店したくなることがあります。これは、嗅覚が購買行動に直結する典型例です。

カフェでも同様に、コーヒーの香りはおいしそう、落ち着きそう、少し休みたいという気分を生みます。香りは、商品の存在を言葉で説明するよりも早く、消費者に価値を伝えます。

ただし、香りが強ければよいわけではありません。強すぎる香りは不快感につながり、逆効果になる場合があります。食品系では自然に漂う香り、ホテルやサロンでは控えめで記憶に残る香りが重要になります。

事例3:カジノにおける香り

香りは、商品そのものと直接関係がない場面でも行動に影響することがあります。

香りを使ったマーケティング研究では、カジノ空間に特定の香りを流したところ、香りの種類によってスロットマシンの売上に差が出た事例が紹介されています。ここで重要なのは、香りがパンの香りだからパンが売れるといった単純な関係だけではないという点です。

空間に漂う香りは、気分、滞在意欲、集中度、快適さに影響し、結果として行動を変える可能性があります。ホテル、商業施設、アミューズメント施設、ショールームなどでは、香りを空間の体験価値をつくる要素として設計することができます。

事例4:BGMによって売れる商品が変わる

店内BGMも、顧客行動に影響します。

たとえば、スローテンポの音楽は滞在時間を延ばす可能性があり、ゆっくり商品を見てほしい店舗に向いています。一方、ランチタイムの飲食店や回転率を重視する店舗では、テンポの良い音楽のほうが適している場合があります。

また、ワインショップでクラシック音楽を流すと高価格帯のワインが選ばれやすくなる、特定の国を想起させる音楽を流すとその国の商品が選ばれやすくなる、といった研究事例も紹介されています。

ここからわかるのは、BGMはなんとなく流すものではなく、売りたい商品や顧客に取ってほしい行動に合わせて設計するものだということです。

事例5:地下鉄広告と暗闇感覚

交通広告の研究事例では、地下鉄という空間特性に着目したセンサリーマーケティングの応用が紹介されています。

地下空間では、地上とは異なる心理状態が生まれます。暗さや閉塞感によって不安を感じやすくなり、明るさや刺激を求める心理が働くことがあります。ある検証では、暗闇感覚のある環境では、過去よりも未来を訴求するクリエイティブに注意が向きやすいという結果が示されています。

これは、広告制作において重要な示唆です。

同じ広告でも、駅の階段、ホーム、車内、地下通路、屋外看板では、見る人の心理状態が異なります。したがって、交通広告やOOH広告では、どこに出すかだけでなく、その場所にいる人がどのような感覚状態にあるかを考える必要があります。

事例6:ワークマンの見せ方の変化

ワークマンは、もともと作業服市場で高機能・低価格の商品を展開していました。しかし、ワークマンプラスでは、アウトドアショップを思わせる売場づくりや見せ方によって、一般消費者にも商品の魅力を伝えることに成功しました。

これは、センサリーマーケティングの観点から見ると、視覚情報の再設計です。

商品自体が持っていた機能価値を、従来の作業服売場ではなく、アウトドア・カジュアルの文脈で見せることで、顧客の知覚が変わりました。

この事例は、特にBtoB寄りの商品や、機能性は高いが一般消費者に伝わりにくい商品に応用できます。商品を変える前に、見せ方や置き方、体験させ方を変えるだけで、新しい市場に届く可能性があります。

業種・シーン別:センサリーマーケティングの使い方

センサリーマーケティングは、業種によって使い方が異なります。重要なのは、自社の目的に合わせて、どの感覚を優先的に設計するかを決めることです。

業種・シーン活用しやすい感覚具体施策狙える効果
飲食店・カフェ嗅覚・味覚・聴覚・視覚焼きたての香り、調理音、照明、食器、BGM入店促進、滞在時間向上、客単価向上
アパレル視覚・触覚・聴覚VMD、照明、素材に触れやすい陳列、試着室の快適性試着率向上、購買率向上、ブランド印象向上
ホテル・旅館嗅覚・聴覚・視覚・触覚ロビーの香り、照明、音の静けさ、寝具の質感高級感、安心感、再訪意向の向上
美容室・サロン嗅覚・触覚・聴覚リラックスする香り、椅子の座り心地、施術中の音環境リピート率向上、満足度向上
小売・スーパー視覚・聴覚・嗅覚売場照明、POP、BGM、試食、焼きたて演出回遊率向上、購買点数増加
ドラッグストア嗅覚・触覚・視覚柔軟剤の香り見本、テスター、比較しやすい陳列購入不安の低減、指名買い促進
ECサイト視覚・疑似触覚素材の拡大写真、動画、レビュー、使用シーン画像購入前不安の低減、CVR改善
交通広告・OOH視覚・空間感覚掲出場所の心理状態に合わせたクリエイティブ広告注目率、検索行動、ブランド想起向上
展示会・ショールーム視覚・触覚・聴覚実物展示、操作体験、音声演出、導線設計商談化率向上、記憶定着
BtoBサービス視覚・聴覚資料デザイン、デモ画面、説明動画、商談空間信頼感、理解促進、受注率向上

センサリーマーケティングで見るべきKPI

センサリーマーケティングは、広告クリック率のように単一指標で測りにくい施策です。そのため、目的ごとにKPIを分けて設定する必要があります。

目的主なKPI測定方法
入店を増やす入店率、店前通行者に対する入店者数店頭カメラ、カウント調査
滞在時間を延ばす平均滞在時間、回遊率Wi-Fi計測、カメラ分析、観察調査
購買率を上げる購買率、CVR、試着率、試食後購入率POSデータ、接客記録
客単価を上げる客単価、買上点数、高価格帯商品の構成比POSデータ
ブランド印象を高めるブランド好意度、記憶率、再来店意向アンケート、NPS調査
購入不安を下げるテスター利用率、返品率、レビュー内容店頭観察、ECデータ
広告効果を高める広告想起率、検索数、QR読み取り数調査、検索データ、アクセス解析
従業員体験を改善するスタッフ満足度、離職率、疲労感社内アンケート、ヒアリング

特に重要なのは、施策前後で比較することです。

たとえば、BGMを変更する場合は、変更前後で滞在時間、購買率、客単価を比較します。香りを導入する場合は、導入店舗と未導入店舗で再来店意向や購買率を比較します。照明を変える場合は、対象売場の立ち止まり率や商品接触率を見ます。

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センサリーマーケティングは感覚的な施策に見えますが、実務では必ず数値とセットで検証することが重要です。

自社で導入するための5ステップ

ステップ1:顧客に感じてほしい印象を決める

まず、顧客にどう感じてほしいのかを明確にします。

高級感を感じてほしいのか。
安心感を持ってほしいのか。
楽しい気分になってほしいのか。
短時間で便利に買えると感じてほしいのか。

ここが曖昧なまま香りやBGMを選ぶと、単なる演出になってしまいます。

ステップ2:顧客接点を洗い出す

次に、顧客が五感で接触するポイントを洗い出します。

店舗であれば、入口、通路、棚、レジ、試着室、トイレ、休憩スペースなどです。ECであれば、トップページ、商品画像、動画、レビュー、梱包、開封体験などが対象になります。

顧客接点ごとに、視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚のどれが影響しているかを整理します。

ステップ3:違和感をなくす

センサリーマーケティングで最初にやるべきことは、刺激を足すことではありません。まず、不快な刺激や違和感をなくすことです。

店内に不快なにおいがある。
照明が明るすぎる、または暗すぎる。
BGMの音量が大きすぎる。
椅子が座りにくい。
商品が手に取りにくい。
レジ周辺が雑然としている。

こうした要素は、顧客に無意識のストレスを与えます。プラスの演出を加える前に、マイナス要因を取り除くことが重要です。

ステップ4:ブランドに合う感覚刺激を設計する

次に、ブランドの方向性に合わせて感覚刺激を設計します。

高級ブランドなら、照明は落ち着かせ、BGMは控えめにし、什器や紙袋の質感にもこだわる。
ファミリー向け店舗なら、明るさ、清潔感、安心感、親しみやすさを重視する。
若年層向けブランドなら、SNSで写真を撮りたくなる視覚演出や、テンポの良い音楽が有効な場合があります。

重要なのは、五感の要素をバラバラに決めないことです。視覚、音、香り、触感が同じブランドイメージを支えるように設計します。

ステップ5:小さくテストして改善する

センサリーマーケティングは、いきなり全店導入するよりも、小さくテストするほうが安全です。

一部店舗だけBGMを変える。
特定の売場だけ照明を変える。
香りを時間帯限定で導入する。
テスターの設置場所を変える。
パッケージの手触りや素材を一部商品で試す。

そのうえで、入店率、滞在時間、購買率、客単価、アンケート結果を比較し、効果が見えた施策を広げていきます。

導入時の注意点

センサリーマーケティングは効果的な一方で、使い方を間違えると逆効果になります。

1. 強すぎる刺激は不快感につながる

香り、音、照明は、強ければ強いほどよいわけではありません。

特に香りは好みが分かれやすく、強すぎると頭痛や不快感につながる場合があります。BGMも音量が大きすぎると、会話や接客の妨げになります。

印象に残すことと不快にさせることは紙一重です。

2. ブランドと合わない演出は逆効果になる

高級感を出したい店舗で、安っぽいPOPや騒がしい音楽を使うと、ブランドイメージが崩れます。逆に、親しみやすさを重視する店舗で、過度に高級感を出すと、入りにくさにつながることがあります。

五感演出は、必ずブランドのポジショニングと一致させる必要があります。

3. ターゲットによって快適な刺激は異なる

若年層にとって心地よい音量や照明が、シニア層にも快適とは限りません。リラックスしたい顧客と、短時間で買い物を済ませたい顧客でも、求める空間は異なります。

同じ感覚刺激でも、ターゲットや利用シーンによって効果は変わります。

4. 現場スタッフの負担を増やしすぎない

センサリーマーケティングは、現場で継続できなければ意味がありません。

香りの管理、BGMの調整、照明の切り替え、什器のメンテナンスなどが複雑すぎると、現場スタッフの負担になります。導入時には、運用のしやすさも考える必要があります。

5. 効果測定なしで続けない

なんとなく良さそうという理由だけで続けると、費用対効果が見えなくなります。

施策ごとに目的とKPIを決め、一定期間ごとに検証することが重要です。売上だけでなく、滞在時間、商品接触率、アンケート、再来店意向など、複数の指標で見ると判断しやすくなります。

センサリーマーケティングの実務チェックリスト

自社の店舗やサービスを見直す際は、以下の項目を確認してみてください。

項目チェックポイント
視覚外観、看板、照明、陳列、POP、スタッフの服装はブランドイメージと合っているか
聴覚BGMのテンポ、音量、ジャンルは顧客層や時間帯に合っているか
嗅覚不快なにおいはないか。商品やブランドに合う香りがあるか
触覚商品、什器、椅子、パッケージの手触りは品質感を伝えているか
味覚試食・試飲・飲食体験は購買不安を下げているか
導線顧客が自然に回遊し、商品に触れやすい設計になっているか
一貫性五感の要素がバラバラではなく、同じブランド世界観を支えているか
測定施策前後でKPIを比較できる状態になっているか
現場運用スタッフが無理なく継続できる仕組みになっているか

まとめ:五感は売場の演出ではなく経営戦略である

センサリーマーケティングは、単におしゃれな空間をつくるための手法ではありません。消費者の五感に働きかけ、知覚・判断・行動に影響を与える、顧客体験設計の重要な考え方です。

関連論文を総合すると、重要なポイントは次の3つです。

第一に、五感への配慮は売上やブランド評価に影響し得る実務的なテーマであるということです。小売企業の経営者・経営幹部も、五感訴求をビジネス成果と関係するものとして捉えています。

第二に、感覚刺激は単体で考えるのではなく、ブランド、商品、店舗、消費者特性との適合性を考える必要があります。良い香り、良い音、良い照明であっても、自社のブランドや顧客に合っていなければ効果は出ません。

第三に、センサリーマーケティングは新商品開発だけでなく、既存商品の見せ方変更、売場改善、広告表現、EC改善、展示会、BtoB商談にも応用できます。ワークマンのように、商品そのものを大きく変えなくても、見せ方や体験設計を変えることで、新しい顧客に価値を届けられる可能性があります。

価格や機能だけでは差別化が難しい時代だからこそ、企業は顧客に何を伝えるかだけでなく、顧客にどう感じてもらうかを設計する必要があります。

五感は、売場の飾りではありません。
顧客体験をつくり、ブランドを記憶させ、購買行動を後押しする、ビジネス戦略の一部なのです

引用元・参考文献

石井裕明・平木いくみ 2016 店舗空間における感覚マーケティング。マーケティングジャーナル 35巻4号、52-71頁。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/marketing/35/4/35_2016.015/_article/-char/ja/

石井裕明・平木いくみ・外川拓・恩藏直人 2025 小売企業の経営者はセンサリー・マーケティングをどう考えているのか?―有効活用に向けたインタビュー調査による検討―。マーケティングジャーナル 45巻2号、95-104頁。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/marketing/45/2/45_2025.020/_article/-char/ja/

王黎黎・速水建吾・恩藏直人 2021 見せ方の変化とアンバサダーの起用による市場開拓戦略―変身した株式会社ワークマン―。マーケティングジャーナル 41巻1号、120-129頁。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/marketing/41/1/41_2021.037/_html/-char/ja/

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