多様性を創造性に変換する組織のメカニズム
ダイバーシティ推進は、本当に組織の創造性を高めるのでしょうか?
論文「コーポレート・ガバナンス改革におけるダイバーシティ推進の意義と企業内の価値創出のメカニズム」は、コーポレート・ガバナンス改革において、どのような多様性の確保が真の価値創出や成功を生み出すのか、そのメカニズムを解明しています。
6,700名のデータが暴く多様性の正体
明治大学の牛尾奈緒美先生は、ダイバーシティ&インクルージョン研究会を通じて、大手銀行・保険・食品・娯楽サービスの4社に所属する約6,700名の従業員を対象としたアンケート調査データを収集しました。そして、創造性や包摂風土に影響する要素を重回帰分析やマルチレベル分析などの定量的な手法を用いて研究を行いました。
本研究では、多様性を性別や年齢などのデモグラフィー型と、職務能力や価値観などのタスク型の2つに分けて分析しています。その結果、組織の創造性やワークエンゲージメントを直接的に高めるのは、価値観や経験が多様であるタスク型ダイバーシティであることが判明しました。
性別などのデモグラフィー型ダイバーシティは直接的に創造性を高めるわけではありませんが、男女比が等しくなることで職務上の経験や考え方の多様性(タスク型)が促進されることも分かりました。その結果、デモグラフィー型ダイバーシティは間接的に創造性の向上に寄与するということが明らかになったのです。
創造性の土台となる包摂風土とリーダーの役割
多様な人材が集まっても、それがそのまま成果に結びつくわけではありません。研究では、メンバーが公平に扱われ、個々の違いが尊重される包摂風土の重要性が示されています。この風土を醸成するには上司の包摂的リーダーシップが不可欠です。包摂的なリーダーのもとではコミュニケーションが活発化し、誰が何に詳しいかという情報をメンバー間で把握し合うトランザクティブメモリーシステムが形成されやすくなります。これが組織学習を促し、組織全体の創造性を大きく引き上げるのです。
風土を変革するトップの圧倒的影響力
さらに、この包摂風土を組織全体に根付かせるための要因も分析されています。現場の風土形成においては、直属の上司の働きかけ以上に経営トップの働きかけが強い影響力を持つことが確認されました。拠点や部署間の意識の差を埋めるためには、経営トップ自らが各事業所に出向き、直接メッセージを伝えるなど、現場との心理的距離を縮めるアプローチが極めて有効であると結論づけられています。
明日から使える包摂のマネジメント
本研究は、女性管理職比率といった表面的な数値目標に縛られがちな現代のマネジメントに対し、極めて実践的なエビデンスを提供してくれます。
属性ではなく知の多様性をマネジメントする
性別や年齢といった目に見える違い(デモグラフィー型)は入り口に過ぎません。真の目的は、その奥にある経験・スキル・価値観の違い(タスク型)を引き出すことです。意思決定の場では、意識的に異なる視点や反対意見はないかと問いかけ、見えざる多様性をテーブルの上に引きずり出しましょう。
誰が何を知っているかをチームの資産にする
リーダー自らがメンバーの意見を傾聴し、尊重する姿勢を見せることで、心理的障壁が下がり情報共有が加速します。チーム内で〇〇の件ならAさん、最新のツールはBさんといった知のインデックス(トランザクティブメモリーシステム)を構築できれば、予測不能な環境下でも迅速で質の高い意思決定が可能になります。
経営トップの言葉を翻訳して現場に届ける
風土改革にはトップのコミットメントが不可欠ですが、トップがすべての現場を回ることには物理的な限界があります。だからこそ、ミドルマネジメントであるあなたが、トップの抽象的なメッセージを現場の実務レベルの文脈に翻訳し、日々の業務の中で語り続けることが、最強の組織風土を創る鍵となります。
多様性は単なる社会的要請ではなく、企業の競争力そのものです。まずはメンバー一人ひとりの「知」を可視化し、互いを認め合える環境を作ることから始めてみませんか。
