明日の戦略が見えるPPM活用術

明日の戦略が見えるPPM活用術

なぜ、今PPMの「学習」視点が重要か?

事業ポートフォリオ・マネジメント(以下、PPM)は、企業が複数の事業を運営する際に、それらの事業の組み合わせ(ポートフォリオ)を戦略的に管理し、経営資源の配分を最適化する手法です。有名なBCGマトリクスに代表されるPPMは、主に各事業の収益性を重視し、短期的な財務成果の最大化を目指してきました。
しかし早稲田大学の淺羽茂先生の論文「事業ポートフォリオ・マネジメントの変遷と展望:収益性 vs. 成長性・学習 」では、この従来型PPMには限界があると指摘します。変化が激しい現代の経営環境では、短期的な収益性だけを追求すると将来の成長機会を逃し、環境変化に対応できなくなる危険性があるからです。

多角化と業績の関係を探る

この研究では、1995年から2017年までの日本企業の公的データを使用し、多角化企業の実際の企業価値と理論的価値の差の推移を確認し、さらに事業の多角化度が企業の総資産利益率にどのような影響を及ぼしているかを調べています。

ここでいう理論的価値は、多角化企業が展開している各事業について、もしその事業だけを行なう専業企業だったら売り上げにどれくらいの価値が付くかという理論値で、これを全事業分合計します。一方、実際の企業価値は、その企業の時価総額と負債の簿価を足し合わせた数値です。これらの実際の価値と理論的価値の比率の自然対数の数値を超過価値といいます。超過価値がプラスになるかマイナスになるかで、多角化の弊害であるコングロマリット・ディスカウントが起きているかどうかを判断します。

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データが語る「多角化の罠」からの脱却

この超過価値の推移データから、1990年代半ばから2000年代半ばにかけて、日本企業の間では、事業の多角化が進むと利益率が低下するコングロマリット・ディスカウントという状態にありました。しかし、その後、選択と集中による事業の絞り込みで業績が改善した結果、2010年代以降は過度な多角化の悪影響は弱まる傾向にあります。
しかし、この研究では目先の利益を追求しすぎると、将来の収益の柱となりうる新規事業への投資が疎かになり、かつて米国企業が陥ったような失敗を繰り返す危険性があると警告しています。

そこで論文が強調するのが、成長性と学習という新たな視点です。企業が持続的に成長するためには、既存事業から安定的に収益を上げるだけでなく、新しい市場や技術を獲得し、組織としての能力(学習)を高めていくことが不可欠だからです。PPMは、単に資源を最適配分するツールではなく、将来の成長に向けた組織学習を促進し、不確実性の中で企業価値を長期的に高める動的な経営システムへと進化する必要がある、と本論文は結論付けています。

どう活かす?ビジネスパーソンのためのPPM実践法

では、この成長性と学習を重視するPPMの考え方を、日々の経営や業務にどう活かせばよいのでしょうか。具体的なポイントを解説します。

未来の種を見極め、育てる投資判断を
現在の収益性が低くても、将来大きな成長が見込める事業や、新しい技術・ノウハウを学ぶための「実験的」な事業への戦略的投資が重要です。例えば、AI技術の社内PoC(概念実証)は、短期的にはコストでも長期的な組織競争力を高める「学習投資」と捉えられます。

事業間の壁を壊し、学びの相乗効果を生み出す
各事業が持つ知識や経験を共有し、互いに学び合う仕組みの構築が求められます。中核事業のマーケティングノウハウを新規事業の立ち上げに活かす部門横断チームなどが、組織全体の学習を加速させます。

変化を前提に、ポートフォリオを柔軟に見直す勇気を
市場や技術の変化は常態です。定期的に各事業の将来性や学習効果を評価し、必要であれば撤退や方向転換も辞さない柔軟性が不可欠です。
これは変化を「新たな学習機会」と捉える文化醸成にも繋がります。
変化が激しい現代において、PPMの本質は「組織の学習サイクル」を回すことにあります。既存事業の安定に甘んじることなく、新しい挑戦から得られた知見を社内で循環させる仕組みを整えましょう。まずは自社の事業を客観的に見つめ直し、どこに「未来の成長エンジン」が隠れているかを探してみてください。組織全体で学び、進化し続ける柔軟なポートフォリオを構築することこそが、変化を味方につけ、未来を切り拓く最大の戦略となります。

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