実は世界最先端?60年前の日本が描いた観光戦略の正体
「温故知新」という言葉がありますが、観光ビジネスにおいても例外ではありません。2003年の「観光立国」宣言以降、日本の観光マーケティング研究は急増しましたが、実はその40年以上前、1960年代に既に現代の戦略に通じる「本質」が議論されていました。
高崎経済大学の外山昌樹先生は、論文「我が国における黎明期の観光マーケティング研究
― 1961年~1970年の傾向 ―」にて、1961年から1970年という「黎明期」の研究を、TCCMという分析手法を用いて紐解きました。
分析に使われた武器:TCCMフレームワークとは?
本研究では、過去の研究を整理するためにTCCMというフレームワークが使われています 。これは以下の4つの視点でビジネスや研究の傾向を分析するものです。
- T (Theory) 理論:どんな考え方(理論)に基づいているか 。
- C (Context) 文脈:どんな市場や対象を扱っているか 。
- C (Characteristics) 特性:どのような要因や成果に注目しているか 。
- M (Methodology) 方法:どのようなデータや手法で分析しているか 。
この論文はTCCMの使い方の例としてもとても分かりやすいものです。当時の20件という少ない数の論文をTCCMで整理した結果何が分かったのかを、実際に見てみましょう。
TCCMで紐解く、60年代観光マーケティングの意外な「先進性」
日本初の観光マーケティング文献が登場したのは1961年。当時の研究から、驚くべき傾向が見えてきました。
- 理論 (Theory):DMOの原型、TITIMシステム
驚くべきことに、日本の観光研究は当時から「観光地イメージ」に注目していました。海外でこのテーマが本格化するのは1970年代からとされており、日本の研究には世界的な先進性があったといえます。
また、「TITIMシステム」という日本の初期観光マーケティングで使われていた独自モデルでは、交通・宿泊・政府・協会などが連携する姿が描かれており、これはまさに現代のDMO(観光地域づくり法人)の考え方の先駆けです。 - 文脈 (Context):インバウンドへの強いこだわり
1964年の海外渡航自由化直後ということもあり、日本人の海外渡航についての研究はまだ進んでいませんでした。研究の主役は「訪日外国人(インバウンド)」。また、地域そのものよりも、ホテルや旅行代理店といった「産業」としてのマーケティングに重きが置かれていました。 - 特性 (Characteristics):国家的なミッション
当時の研究では、観光の成果として「外貨獲得による経済発展」や「国際平和への貢献」が強く意識されていました。マーケティングが単なる売上アップの手段ではなく、社会的な大義と結びついているのが特徴です 。 - 方法 (Methodology):理論構築の模索期
手法としては、実際にデータを集める「実証研究」よりも、既存の知識から考察を深める「概念的研究」が中心でした。これは新しい学問領域が立ち上がる際の、土台作りの時期であったことを物語っています。
ビジネスパーソンのためのTCCM活用術
この論文から学べるのは観光マーケティングの歴史だけではありません。TCCMフレームワークは、現代のビジネス戦略を立てる際にも極めて有効です。
例えば、新サービスの企画や組織改革の際、以下の4項目をセルフチェックに使ってみてください。
- 【Theory】その戦略の「勝ち筋」に根拠はあるか?
単なる思い付きではなく、「返報性の原理」や「消費者行動心理」など、どのビジネス理論に基づいているかを明確にすることで、成功率を高めます。 - 【Context】戦う「土俵」は適切か?
市場環境(インバウンドか国内か)や、対象(BtoBかBtoCか)など、今の施策が置かれている状況を再定義します。 - 【Characteristics】結果を左右する「変数」は何か?
売上に直結するのは「顧客満足度」か、それとも「為替や景気」といった外部要因か。影響を与える要素(独立変数)を特定します。 - 【Methodology】判断の「証拠」は十分か?
「なんとなく」で決めていないか。アンケート、SNSのデータ分析、あるいは実証実験など、最適な検証方法を選んでいるかを確認します。
約60年前の先駆者が「TITIMシステム」で組織間の連携を説いたように、現代の複雑なビジネス課題も、このTCCMで構造化することで、進むべき道が見えてくるはずです。
