ニコニコに学ぶ プラットフォームのクリエイターマネジメント

ニコニコに学ぶ プラットフォームのクリエイターマネジメント

ニコニコ復活を支えたPBRsとは?

明治学院大学の木川大輔先生は、論文「プラットフォーム境界資源と補完者エンゲージメント:ニコニコ動画・ニコニコチャンネルの事例分析」において、動画サイトなどの「プラットフォーム(場を提供するサービス)」が、どのようにしてクリエイター(外部の協力者)を惹きつけ、共に成長していけるのかを、株式会社ドワンゴが提供するサービス「ニコニコ(niconico)」の事例を通して分かりやすく分析しました。

プラットフォーム成功の鍵は「数」から「熱中」へ

これまでのネットビジネスでは、「とにかく利用者の数を増やせば、自然と人が集まって有利になる(ネットワーク効果)」と考えられてきました。しかし近年、ただ数が多いだけでは不十分で、「クリエイターがいかにその場に熱中し、良いコンテンツを作り続けてくれるか(エンゲージメント)」が重要視されています。

この「クリエイターのやる気」を引き出すために、運営側が提供する「ツール」や「ルール」のことを、専門用語でプラットフォーム境界資源(PBRs)と呼びます。

ニコニコ動画の苦境:なぜクリエイターはYouTubeへ逃げたのか?

かつて国内で圧倒的人気だった「ニコニコ動画」は、2016年ごろから有料会員が急減しました。その最大の理由は、人気のゲーム実況者たちがYouTubeへ活動拠点を移してしまったことです。

動機の変化:

 最初、投稿者たちは面白いコメントをもらいたいという「承認欲求」という気持ちで投稿していました。しかし、スマホや4Gの普及で動画市場が大きくなると、活動の目的が「お金を稼ぎたい(経済的動機)」へと変わっていきました。

使いにくい道具とルール: 

当時のニコニコ動画にも、お金を支払う仕組み(クリエイター奨励プログラム)はありましたが、動画1件ごとに申請や審査が必要で非常に手間がかかりました。また、どのゲームなら投稿して良いのかというルールも曖昧でした。 一方、YouTubeは収益化の仕組みがシンプルで分かりやすかったため、多くのクリエイターが「ニコニコは不便だ」と感じて離れてしまったのです。

ニコニコチャンネルの逆転劇:ファンとの「絆」を支える仕組み

このピンチを救ったのが「ニコニコチャンネル」というサービスです。これは、単に動画を投稿する場所ではなく、クリエイターが自分の「ファンクラブ(コミュニティ)」を作れる場所として設計されました。

運営側は、クリエイターが活動しやすくなるよう、以下のような「道具(資源)」をセットで提供しました。

多機能な交流ツール:

動画だけでなく、「生放送」や「ブログ(ブロマガ)」、さらには「リアルイベントのチケット販売」まで、一つの場所でまとめて行えるようにしました。これにより、ファンと深く交流できるようになりました。

自分でお金を設定できる仕組み:

広告収入に頼るのではなく、クリエイターが自分で「月額100円〜」のように会費を自由に決められる仕組みにしました。ファンの数が爆発的に多くなくても、熱心なファンが一定数いれば活動を続けられる、クリエイターに優しいモデルです。

人間による手厚いサポート:

ウェブ上の説明書を充実させるだけでなく、「収益化コンサルタント」という担当者を配置しました。彼らは「どうすれば会員が増えるか」を一緒に考えたり、コンテンツ制作を直接助けたりしました。

ニコニコの事例から学べること

ニコニコチャンネルは、2019年には有料会員が100万人を超えるほどの大成功を収めました。この事例から、ビジネスにおいて大切な3つの教訓が得られます。

1.相手が「何を求めているか」に合わせる
お金を稼ぎたいのか、ファンと交流したいのか、クリエイターの目的にぴったりの道具(ツール)を用意することが大切です。

2.独自の「場」の雰囲気を作る
YouTubeのような「効率重視」の場所とは違い、ニコニコは「ファンと触れ合える温かい場所」という独自のキャラクターを打ち出しました。

3.既存資源の再構成

全く新しいものを作るのではなく、ニコニコ動画で培った「コメント機能」や「動画配信技術」を活かしつつ、新しい仕組み(会費制など)を組み合わせたことが成功に繋がりました。

単にユーザー数を追うのではなく、クリエイターが「ここで活動したい」と思える環境(PBRs)を戦略的に整え、彼らとの「共創」の関係を築くことが極めて重要です。

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