トヨタのすり合わせ慣行はどう海外拠点に移転されているのか

トヨタのすり合わせ慣行はどう海外拠点に移転されているのか

「すり合わせ」という日本企業固有の競争力の源泉

日本企業、とくに自動車産業が旧来より競争力の源泉としてきた慣行があります。それが「すり合わせ」。私たちはビジネスの様々なシーンでこの言葉を使いますが、定義をするなら、部門間での緻密な相互調整のことです。

すり合わせは、特に製品開発や事業企画について言えば、部門にまたがる問題を解決することによって製品の品質や性能の改善に繋げられるほか、後工程になって生じうる問題を先出ししておくことで修正・変更のリスクを減らせること、また複数の活動を同時進行で行うことによってプロジェクト期間を圧縮できるなどの効果を持ちます。自動車産業など、これらの要素が効果的になる業界において、すり合わせは日本企業の重要な競争力の源泉となっているのです。

大阪公立大の石井真一先生は、すり合わせを海外拠点に展開できるか、という問題意識を持ちました。これが日本企業の強みであるなら、海外移転ができなければ、企業成長の足かせになってしまうだろうと。論文「外製品開発におけるすり合わせ型プロセスの適用」では、これまでの400人近い石井先生のインタビューに基づき、トヨタ自動車がいかに海外拠点ですり合わせを実現したのかが解説されています。

トヨタ自動車のすり合わせ、どう海外に移転されているのか

石井先生は、既存の論文に加え、自らが2005年~2022年に国内外で実施した391 名へのインタビュー、さらには現地観察も複合して、トヨタ自動車の製品開発プロジェクトでのすり合わせが海外でどのように行われているのかを調べました。

・現地の開発プロジェクトメンバーに、日本での開発プロジェクトに事前に参加させ、日本流のやり方を教え込んでいた。

・日本での開発プロジェクトでは、海外メンバーが自分たちのプロジェクトで使いたい部品や仕様をそこで先んじて開発することとなった。前のプロジェクトの知識や成果を、後のプロジェクトで使うことはこれまでにもあったが、海外で行われる後のプロジェクトで欲しい知識・成果・メンバーの経験を、前のプロジェクトで提供する形にした。

・本社側では、海外拠点が何をどれだけできるかという開発力に関する認識があった。

これらの発見から、石井先生は、1)海外拠点の技術者たちに、国内拠点での業務のやり方を学ばせること、2)すり合わせがなぜ競争力に貢献するのかという、国内拠点のやり方の競争力貢献のメカニズムについて、海外プロジェクトメンバーに理解させること、3)能力移転が円滑に図られるよう、部門間連携やプロジェクト間連携のかたちが柔軟に変更できること、の3点が鍵であろうと結論をしています。

WhyとHowを丁寧に教えることの大切さ

石井先生の論文からは、日本の最有力企業のひとつであるトヨタの強みの一端が解明されています。国内で閉じることなく、国内慣行を海外拠点にもしっかり展開していく。だから、海外でも自社らしい事業スタイルで競争力ある事業活動ができる。海外事業に対する怯みのようなものは、そこにないことが分かります。

そのためにも、単に「日本ではこうやっているから」ではなく、なぜそれが競争力に貢献するのかを海外側に理解してもらうことが大切であろうというのは、とても大切な指摘です。なぜやるのか、というWhyの部分を丁寧に説明するからこそ、海外拠点メンバーもそれを受け入れられる。

加えて、具体的なやり方:Howについては、一緒にやって見せることで、手抜かりなく能力移転をする。WhyとHow、それぞれを丁寧に移転しているからこそ、海外拠点にも国内のやり方が移転されている。

海外拠点ならずとも、これは能力移転において重要なことでしょう。社内教育で心掛けるべきは、WhyとHowの理解。そこを飛ばすと、組織力の向上にならない。石井先生の研究は広く拠点教育・人材教育のヒントを私たちに提供しているのです。

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