低コスト競争には限界があり、企業には差別化可能な価値の創出(=イノベーション)が重要です。イノベーションは部門横断的な協働を通じて実現されるため、組織デザインの在り方が重要な役割を持ちますが、組織デザインについての解はありませんでした。
立教大学大学院の山中伸彦先生は以下の目的で、調査表を活用し、主成分分析・重回帰分析・媒介分析を行いました。
- 日本企業におけるイノベーションに資する組織デザインを明らかにす
- 組織化形態と経営への信頼との関係を検証する
- 組織デザインとイノベーションの関係における「経営への信頼」の効果を明らかにする
研究手法
日本能率協会KAIKA研究所を通じ、主要企業の企画・人事・総務部門の役員・部長級に3,500通の調査票を配布しました(回収240件、回収率6.86%)。
変数構成(≒測定要素)は主に以下の3点です。
- 組織化要素(フラット化、分権化、部門間協働、IT化、水平・垂直コミュニケーション、権限関係など)
- 経営に対する信頼(従業員―経営者間の信頼関係尺度)
- イノベーション成果(新製品・サービス、新規事業の継続、活動度合い)
分析方法は以下の3点です。
- 主成分分析 → 組織化の「パターン」を抽出する
- 重回帰分析 → 組織化パターンとイノベーション成果の関係を検証する
- 媒介分析(Baron & Kenny手法)→ 信頼の媒介効果を検討する
主成分分析から、7つの組織パターンが導かれ、山中先生は以下のように特徴づけています。
| 代表的なパターン名 | 概要 |
| 補完的組織化 | 複数の組織化要素を総合的に導入しているタイプ |
| ダウンサイジング型フラット化 | フラット化と人員削減を中心とした縮小型タイプ |
| 組織的イノベーション無きIT化 | IT導入は進むが制度化やイノベーションが伴わないタイプ |
など合計7パターン
重回帰分析から、主成分1:補完的組織パターンがイノベーション能力、継続性、活動など、すべてにおいて最も強い正の効果を発揮しました。それ以外のパターンは効果が限定的で、モラール低下など時には負の効果も認められました。また、
ITや連携などの組織施策をバラバラではなくセットで導入し、互いに効果を高め合う合わせ技の組織作りである「補完的組織化」は経営への信頼を高める効果があることも明らかになりました。信頼はイノベーション活動の促進を部分的に媒介はしていましたが、イノベーション能力そのものや成果そのものへの媒介効果は限定的でした。
さまざまな要素からイノベーションが生まれる
イノベーション志向の組織デザインは、自由と統制、創発と計画、自律と他律といった、一見矛盾する論理の総合で成り立っています。経営への信頼はイノベーション活動(新しい取り組みへのチャレンジ度合い)を部分的に媒介はしているものの、それだけではイノベーションは生まれず、他の要素も必須です。
つまり、単一のベストプラクティスの導入は不十分であり、様々な要素の統合(補完性)が重要であることが明らかになりました。
すなわち、経営への信頼を前提としながら、上下左右とのコミュニケーション、IT化、制度、目標管理……さまざまな要素が織り込まれてイノベーションが生まれるということです。
ビジネスのイノベーションにウルトラCはなく、さまざまな要素をコツコツと組み合わせをしていくことが必要なのでしょう。
記事原案 こず
