大企業ミドルは社内の新事業プロジェクトにどう取り組めばよいか
大企業では、優秀なミドルが新事業創造に主体的に取り組んでいくことがよくあります。この大企業ミドルによる新事業創造は、スタートアップがイノベーションを起こすのとはまた別の難しさがあり、そしてまた固有のメリットがあります。
武蔵野美術大学の朝山絵美先生は、この大企業ミドルによる新事業創造固有の難しさが、どう乗り越えられていくのかを研究しました。今回紹介する論文「新事業創出におけるミドル・マネジメントのビジョン形成および浸透のメカニズム」では、特にその過程の中でも、新事業へのビジョンがどう自分の中で形作られて、社内にはどう浸透されるのかが検討されています。
日本の大企業10社における新事業創造でのビジョン構築ステップ
朝山先生は、日本の大企業で新事業創出を成し遂げた10名もの多様な業種・立場の方々へのインタビューを実施しました。そのインタビュー成果をまとめて構築したステップは、下記のようなものでした。
1)変革に対する動機形成
手挙げであったり、指名であったり違いはありますが、大企業での新事業創出は自分で起こすスタートアップとは違います。それに取り組む意味をまず自分で見出さねばならないのです。ここにおいて、成功裏に取り組めた人は、偶発的な出会いが自分に気づきをくれたと認識し、主体的に取り組もうという精神を育て、また行動を起こすことで自身の創造性を奮い立たせていきます。
2)自己のバイアスの否定
次には、自己の内部で、新しい考え方を受け入れるために、既存の考え方の構造化・相対化が図られ、それを論理的に否定する作業が行われます。そこに至るために模索・探索が一定の期間苦闘されることも少なくありませんでした。
3)共感を埋めるベクトルの発見
続いては仲間と支援の獲得です。ここでは、どういう表現、アプローチであれば共感をしてもらえるかが検討されます。それが見つかると、次のステップに進むことができます。
4)現実把握によるバイアスからの脱却
成功裏に新事業構築を為し得た人は、ここで早期にヴィジョンを構想することを試みます。それによって自分たちのビジョンの問題点を見つけ出し、改善を重ねて自分たちの思考の誤りを正していきます。
5)他者の共感の獲得
言葉の表現工夫による他者のバイアスの破壊、具象的な表現での五感刺激、シンプルな論理による共感の獲得、情動への働きかけによる共感の獲得といった技が総合的に使われ、人々を説得していきます。
6)トップの協力
ここからは使う言葉、表現内容がビジネスのそれになります。収益性の高さによる納得感の醸成、実現性の高さによる動機付け、競争優位性による動機付け、他部署の協力意義の明確化による納得感の醸成が図られます。
7)創造を継続していくための組織変革
組織自体がこの取り組みを継続していけるようになるために、組織自体の作り変えがここではかられます。成果の創出による動機付け、チャレンジ・失敗を許容する文化の醸成などがここで取り組まれます。
一般性ではなく、有用性で評価する
大きな会社の中で新事業に取り組む人にとっては、色々と参考になるところのある話だったのではないかと思います。その一方で、常にこのステップになるのか(他の形になる可能性は大いにあるはずだ)、日本以外で一般性を持ち得る理論なのか、ここは自分の経験とは違う…といった疑問を持たれる方も多いのではないかと思います。
そうした疑問にこたえるためには、この研究が拠って立つ学問的前提について解説する必要があるでしょう。
この研究は研究思想として、M-GTAというものが採用されています。M-GTAとは何なのかはあえて深追いしませんが、これは平易に表現すれば「対象を観察した結果とはつまり、その分析対象に限定した範囲でのみ成り立つ理論なのである」という考え方です。あえて一般化の可能性を捨てることで、観察結果をなるべく豊かにそのまま科学的知見として活用しようという理念をもつ考え方です。
※責任編集:中川功一より
研究”思想”という呼び方は学術界から大いに反発があるものと思いますが、私はこれは方法論なのではなく、理論というものに向き合ううえでの基本的なものの考え方、前提のようなものだと考えます。M-GTAという概念の骨子は、方法にあるのではなく、思想にこそあると思うのです。
ここで発見されたことがどれだけ一般性を持ちうるのかを問うことはナンセンス。ここで発見されたことは、この調査の範囲についてのみ成立しうる理論である。それでよいとする。この調査と同じような状況にある個人や組織にとって、豊潤なヒントを提供しているのだから。そして、また別の調査で類似の結果が得られたならば、それを積み上げていけばより一般性の高い理論にたどり着けるというのがこうした研究の信念なのです。
なので、皆さんはぜひ「この知見はどれだけ一般性を持つのか」とは問わずに「この知見は自分の身に置き換えてどう使えるか」を考えてください。そのような目線で見たとき、この論文は実に多くのヒントを私たちに与えてくれていることに気が付けるはずです。
記事原案 M.Sumida

新規事業の壁は「管理会計」にもあるのでは?
既存事業側は自部署の数字を削る事業を支援しづらく、無理な収益性を求めがちです。これは組織文化の追求だけでは限界があり、既存事業と新規事業の成績評価を切り離すような仕組み作りこそが、協力体制を築く鍵となる、と考えます。