組織の中での個人の主体性こそが、日本産業復活の鍵
日本企業はなぜ、変革ができなかったのか。専修大学の馬塲杉夫先生は、論文「組織が個を活かせない原因と分離融合のダイナミズム」にて、その原因を個人の主体的な革新能力にもとめ、それを強化するために日本企業がどう取り組めばよいのかについて議論をしています。
この論文では、まず大きく個を生かすためのマネジメントの全体像を示したうえで、なぜ日本企業ではそれが機能しなくなったのかが論じられ、最後にそれを突破するための馬場先生独自のアイデアである「分離融合メカニズム」が提唱されます。
個を生かすためのマネジメントの概要は、下記の図の通りです。まずビジョンの浸透から始まり、十分な個人への権限移譲を行い、個人が自由に挑戦できるようにするための評価等の制度構築を行う。これらを通じて、個人が主体性を発揮し、とりわけ新しいことに挑戦できるようになります。

しかし、日本企業ではこれが機能していない実態を、馬場先生は指摘します。十川廣國研究室(慶應大→成城大)で継続的に実施されてきた日本の大手地方製造業へのアンケート調査より、ビジョン浸透、権限移譲、挑戦する評価制度の全てが整っている企業は全体の10%未満であることが分かりました。
組織と個人の、分離融合のメカニズム
馬場先生はこの状況を打破するために、個人の主体性が組織全体の方向性と「融合」している状態と、その2つが「分離」している状態の両方を許容し、既存事業の進む方向性に沿うもよしとしつつ、自由に新しい方向性を見出す活動も促進する「分離融合の両立」こそが望まれると提唱します。
すなわち、会社が立ち上がって最初のうちは皆が一丸となって事業の成長(深化)のために集中すべきですが、ある程度まで進んだタイミングからは、事業環境の中で新しい方向性を見出した個人が主体性を発揮し、新事業に挑戦するのを促進するようにマネジメントの方向性を改める。分社化や社内ベンチャーなどの方法が、それに該当する。また、既存事業が方向性を改めるべきときには、既存事業の中から、複数の個人が主体性を発揮して組織が向かうべき方向性を改めることを奨励・促進する。
うまくいっている間は、現在の方向性に個の主体性を沿わせ、歯車が狂い出したり、新しい方向を見出したときには、それに対して変革行動を取ろうとする個の主体性を奨励するー、つまりは、分離融合の両立メカニズムとは、いかなる時でも組織は個の主体性を尊重し、それに沿った行動を促進するようにすべきだというのが、この理論アイデアの要です。
このモデルの有用性は本論文の中で実証されているわけではありません。しかし、組織の中の個人のあり方、それを支える組織の仕組みなど、様々にアイデアの広がりをもたらしうる、興味深い新理論の提案だと評価できます。個の主体性の発揮と、組織。そのあるべき形について、分離融合という発想を参考にしてもらえたらと思います。
記事原案 新谷志津乃
