今日、多くの経営者やビジネスパーソンにとって「グローバル」はなじみのある言葉になりました。
立命館大学大学院の水野由香里先生の論文『中堅中小企業のグローバル戦略から視る「企業経営の未来」―森松工業とナベルの事例から―』では、グローバルに展開している成長企業は、どのような経営によって グローバルに成長を続けているのか?(グローバル展開の成功と失敗の)違いはどこにあるのか?といった疑問に一つの解を提示しています。
水野先生は、複数の先行研究の精査と、2社(森松工業とナベル)の資料(水野先生ご自身の過去研究にも基づく。例:日本ケース センターにあるコンテンツなど )事例調査から【経営者が海外展開の戦略的意思決定を行い、信頼できる現地マネジメントチームが戦術を遂行する体制】が成果につながることが明らかになりました。
ポイントは「中堅中小企業においても」この基本的な項目を着実に遂行するということにあるでしょう。
結果と実務的含意
事例企業
今回は2つの中堅中小企業の事例を取り上げています。
| 事例企業の基本的情報 | 森松工業 | ナベル |
| 本社 | 岐阜県本巣市 | 京都府京都市 |
| 創業の背景 | 1947年創業。第二次世界大戦中の金属加工技術を基盤に、戦後に創業。初代社長が零戦製造に関与していた経験を活用。 | 1964年創業。当初は大手電機メーカーの下請け。 |
| 事業内容 | ステンレス製パネルタンクの製造。給水タンクや圧力容器を中心に展開。 | 鶏卵自動選別・包装システムの開発・製造。業界初の超音波シール機などを開発。 |
| 国内シェア | ステンレス製パネルタンクで国内シェア約7割 | 鶏卵自動選別包装システムで国内シェア約7割 |
| 海外展開について | 1980年代後半に中国市場進出。1990年、上海森松を設立(当初は合弁企業)。 国内市場縮小への危機感から、会長が日中国交正常化時に中国市場の可能性を認識。 | 1992年にマレーシアで初の代理店契約。その後、中国・台湾・韓国などに拡大。 日本市場の小ささから、研究開発資金を確保するために海外市場が必要と判断。 |
| 海外拠点 | 中国(上海森松、南通工場など) | マレーシア(製造拠点)、中国(営業・メンテナンス拠点) |
事例企業分析から読み解いたこと
中堅中小企業によくある課題をどのように克服したかが明らかになりました。
| 課題 | 森松工業の対応 | ナベルの対応 |
| ①現地ニーズの把握・販路開拓 | 圧力容器技術で中国進出企業のニーズに応え、信頼を獲得。模倣品問題後も現地ネットワークを活用して事業拡大。 | 代理店方式を基本としつつ、技術者が現地に赴いて顧客ニーズを直接把握。改良を重ねて次の受注につなげる。 |
| ②現地人材・パートナーの確保 | 中国事情に詳しい西村氏を登用。→キーパーソン のちに日本に帰化した中国人・西松氏を総経理(日本で言う責任者)に抜擢し、現地商習慣に合った経営を実施。 | 各国で信頼できる代理店と提携。 マレーシア法人では元日系企業勤務のチャイニーズ・マレーシア人、中国法人では日本に帰化した中国人を幹部に登用。 |
| ③本社人材の関与・支援 | 西村氏が本社と現地をつなぐ「橋渡し」として頻繁に往来。社長も強い覚悟で現地幹部を全面的に信頼。 | 本社の海外担当取締役が代理店・現地法人を統括。さらに「ナベルの伝道師」と呼ばれる技術者を現地に派遣し、製造・理念を浸透。 |
2社成功要因のうち、共通項・類事項を整理すると、以下のようにまとめられます。
①トップ(社長)の強い戦略的意思決定
両社とも国内市場の限界を見据え、社長自らが海外進出を決断。
②信頼できる現地マネジメント人材の登用
現地事情に通じた人材(帰化人材や現地幹部)を抜擢。
単なる採用ではなく、”社長・幹部が深い信頼関係を築いた人物”を配置。
③本社と現地をつなぐ「橋渡し人材」の存在
森松工業=西村氏、ナベル=海外担当取締役・伝道師。
※森松工業について、社長が「西村氏に裏切られるようなら、会社も中国事業を閉じた方が良いという覚悟」と語るほどの関係性ができている。
現地任せでも本社任せでもなく、両者を結ぶ役割が成果に直結。
④現地ニーズへの直接対応
森松工業はグローバル企業の注文に応えることで信頼獲得。
ナベルは技術者が現地に赴きニーズを把握し、製品改良。
まとめ
国内市場のシュリンク(市場規模縮小)を見越して、また事業機会が海外にあることを認識し、経営者自身が海外事業展開 という戦略的意思決定を行っています。一方で、現地の実務マネジメントは、信頼できるトップマネジメントチームに任せるという体制が成功要因であることから、現地のマネジメントができる人材を早いタイミングから育成しておくことが肝要でしょう。
最後に、現地の商習慣や人材マネジメントは、日本のそれと大きく異なります。その意味でも、現地の情報に詳しい人材を手当する必要があることが改めて確認されました。事例企業の場合は、こうした人材が日本に帰化する際に協力したり、要望を叶えたりするなどして、相互の信頼関係を構築してきたことも確認されました。このように、グローバル展開において、現地キーパーソンとの信頼関係を構築していくことは(大企業でももちろんのことですが)、中堅中小企業では一層重要な取り組みであると考えられます。
記事原案 こず
