なぜバブルの崩壊は繰り返す?
バブルとは、株式や不動産などの資産価格が実体経済から乖離して異常に高騰し、やがて泡のように崩壊する現象です。もし、この市場の暴走を事前に察知できれば、ビジネスや投資における致命的なリスクを回避できるはずです。
バブルの発生を事前に見抜くことは困難とされてきましたが、横浜国立大学国際社会科学研究院の鈴木雅貴先生は、「株式バブルの発生メカニズムとその識別」という論文の中で株式配当先物という市場データを使って客観的にバブルの早期発見が可能になるという画期的な方法を導き出しています。
従来の手法の限界
資産価格のバブルを正しく識別するには、将来の配当などから正当化される資産本来の価値、つまりファンダメンタルズを正確に推定する必要があります。しかし従来主流だった、過去データに基づく時系列モデルや市場アナリストの将来予想を用いる手法では、リアルタイムかつ客観的にこれを捉えることが困難でした。状況が刻一刻と変化する中、過去の延長線上にある予測データだけに頼ることは、大きな判断ミスを招きかねません。
市場のリアルな期待を直接測る
そこでこの研究では、欧州の代表的な株価指数であるEuro STOXX 50の配当指数を対象に、株式配当先物市場の2008年6月〜2018年8月の日次データを用い、連続時間モデルと内挿・外挿法(Smith/Wilsonモデル)を組み合わせた高度な分析手法を採用しました。
連続時間モデルとは、時間を1年後・2年後といった点として区切らずに、途切れのない滑らかな流れとして扱う方法です。また、実際の金利データは「最長10年先まで」のように期間が限られているため、データの存在しない空白期間を補い、あらゆる期間のデータを漏れなく揃えるために内挿・外挿法(Smith/Wilsonモデル)を用います。
株式配当先物とは、将来支払われる配当総額を原資産とし、あらかじめ定めた価格で将来売買することを約束する金融派生商品です。その価格には、長期的な配当に対する投資家のリスク調整済み期待が瞬時に反映されます。このデータを活用することで、特定の経済モデルや主観に依存しない、より即時性の高い客観的なファンダメンタルズの直接推定に成功したのです。
バブル発生のメカニズムと定量的な成果
この手法で算出された客観的なファンダメンタルズと、実際の株価との乖離を株式バブルとして抽出し、定量的な実証分析を行った結果、どのような環境下でバブルが発生しやすいかというメカニズムが明確になりました。緩和的な金融環境による短期金利や信用リスクの低下、市場参加者による将来経済への過度な楽観的期待、そして将来経済に関する不確実性の増大という要因が揃うことで、市場がファンダメンタルズから乖離し、バブルが生成・助長されていくことが実証されたのです。
バブルの早期発見でリスクをコントロールする
本論文で提案されたバブル早期発見アプローチの強みは、過去のデータや特定の計算式に頼らず、市場のいまの期待を客観的かつリアルタイムで数値化できる点にあります。これにより算出された本来の価値と実際の株価のズレをチェックすることで、現在進行形のバブルをいち早く察知し、自社の投資戦略やリスク管理に活かすことが可能になります。
割高・割安を見極め、投資判断の精度を上げる
株価と本来の価値とのズレは、将来の株価がどう動くかを予測する有力な手がかりになります。実務においては、このズレの大きさをいまの株価が実力以上に割高か、それとも割安かを判断するための客観的な基準値として使うことができます。そうすることで、より精度の高い投資判断や、資産配分の見直しが可能になります。
バブルが生まれやすい3つのサインを監視する
この研究から、バブルは金利や信用リスクが低く資金が借りやすい環境、将来の経済に対する過度な楽観論、先行きの不確実性が高まっている状態という条件が重なった時に発生しやすいことが明らかになりました。ビジネスリーダーや投資家は、世の中の金利動向や市場の不確実性といったサインを日頃から注視しておくことで、バブル形成の予兆をいち早く捉え、事業や投資において事前に対策を打つためのヒントとして活用できます。
本論文が持つ最大の価値は、これまで難しいとされてきた株式の本来の価値を、最新の金融データを使ってリアルタイムに見える化した点にあります。この知見を活用すれば、市場の異常な過熱や歪みを早期に察知し、不要な投資リスクを回避するなど、より客観的なデータに基づいた説得力のある意思決定ができるようになるはずです。
記事原案 M.Sumida
