外部提携が社内のイノベーションに直結しない?
他社や公的機関、大学などとの外部連携は、自社にない貴重な知識を取り入れることができることで注目されています。でも、その外部提携、本当にうまく会社の役に立っているのでしょうか?
早稲田大学の宇都宮沙織先生は、論文「外部連携への人的資源投入は企業の知識創造にどう影響するか?:日本の総合化学メーカーの特許出願データによる実証分析」で外部連携への人材の投入と、知識創造の関係について分析し、実は外部連携の成果は社内全体に波及していない可能性があるという興味深い結論を導き出しています。
日本の総合化学メーカー8社の特許データを分析
この研究では、イノベーション創出に向けた外部連携の有効性を検証するため、日本の大手総合化学メーカー8社の特許出願データ(全部で55,641件)と、会社の財務データを使いました。そしてイノベーションにつながったかどうかの指標を特許出願数で表しました。集めた特許の情報は自社内だけで開発したものと、外部との連携で開発したものに分けています。そして研究に携わった人が社内の研究で開発したものと、外部との連携で開発したものに細かく分けて、それぞれにどれくらいの時間や労力を費やしたかを計算しています。これらの情報から、外部との協力に力を入れることが、新しい特許の出願を増やすことにつながるかということを統計的な手法で分析しました。
外部連携の特許出願数は増えるが……
この分析の結果、外部連携に費やす時間や労力を増やすことで、外部連携由来の特許出願数が増えるという結果が得られました。これは一見すると、外部連携は成功しているかのように見えます。しかしながら、もっと重要なこととして、外部連携によって会社全体や、社内でやっている研究開発の成果(特許出願数)が増えるかどうかということは、はっきりしませんでした。
外部連携で外部の専門知識や技術を取り入れたら、それはそのプロジェクト単体での成果獲得だけでなく、得られた知識を社内に広げて、社内研究開発を刺激・補完することが期待されます。しかしながら、データが示す現実は外部連携の成果が外部連携プロジェクトの中に閉じこもってしまっているというものでした。
外部からの知識が社内に広がらないのはなぜ?
外部提携で会社が外から新しい知識や技術を取り入れても、なかなか社内で生かされないのはなぜでしょうか。
本論文では、外から入ってきた新しい知識がこれまでの自社の技術とあまりにかけ離れていると、それを受け止める「吸収能力」が足りずに社内へ広がりにくいことが指摘されています。また、自分たちで開発したものでなければ認めないという自前主義の壁や、外部知識を自社で使いこなせる形にするための膨大なコストも大きなハードルです。さらに、協力相手が技術の流出を恐れて消極的になるケースもあり、こうした様々な要因が絡み合うことで、せっかくの知見が社内で循環するのを妨げているようです。
外部連携を社内に広げるには?
外部の会社と協力するのに時間やお金をかけても、そこで得られた大切な知識を、社内の既存の資源と結びつけて新しい価値を生み出す知識の統合がうまくできていなければ、外部提携で得た知識や技術は十分に活かされていないことになります。
外部連携の効果を最大限にするには、ただ外部と組むだけでなく、得られた成果を社内の研究開発などにうまく広げ、会社の中でしっかり活かせるように管理・運営してゆくことがとても重要です。
外部の知識と既存技術を組み合わせて、他社に真似できない成果を生み出せる土壌をつくるには、新しい知識を拒否せず、自前主義を脱却して組織全体で外部知識を積極的に取り組めるようにマネージャー主導で促す必要があるでしょう。また、外部連携で得られた知識が社内で広がり他の技術と結び付けられているかをマネジメント側で管理してゆくことも必要です。
新しい知識を恐れず、積極的に取り入れ、それを自分たちのものとして進化させていく姿勢こそが、企業を未来へと導くカギとなるでしょう。
