結束より、違う人との緩やかなつながりが効いた
コロナ禍で客が消えた観光業界で、危機を乗り切る力になったのは、業種や立場の違う人との緩やかなつながりでした。似た者同士の結束も支えになりましたが、効き目はそれを上回っていました。コロナ禍に生まれたオンラインの集まりに参加した人たちを調べた研究の結果です。
神奈川大学の髙井典子先生とセントラルフロリダ大学の原忠之先生は、論文「コロナ禍における観光業界のソーシャル・キャピタルとレジリエンス ― SNSグループの分析 ―」で、このつながりの効果を確かめました。
舞台は、2020年5月にFacebook上で立ち上がった訪日観光業界のグループです。訪日客が前年から99.9%減った時期に生まれ、最初の5か月で参加者は2,000人を超えました。宿泊や交通、通訳案内などの業種に加え、大企業から中小企業まで、組織の代表から個人事業主まで立場の違う人が集まり、4年間で100回を超えるウェビナー(オンラインの勉強会)が開かれてきました。
両先生は2024年2月から3月にかけて、このグループのメンバーに質問紙調査を行い、281人から回答を得ました。人とのつながりが生む資源を、二つに分けて測っています。一つは、背景の違う人とつながることで視野が広がり、新しい情報を得られる「橋渡し型」。もう一つは、似た立場の人との強い絆が助け合いを生む「結束型」です。
分析の結果、グループの活動に積極的に参加した人ほど、どちらのつながりも強く感じていました。そのうえで、コロナ禍の変化に対応できた、危機をチャンスに変えられた、コロナ後に備えられたという実感との関係を調べると、どの項目でも、結束型より橋渡し型の影響が強く出ています。特にコロナ後への備えには、橋渡し型だけが有意に効いていました。両先生は、先を見据えた動きには、助け合いより新しい資源の獲得のほうが効いたのではないかと見ています。
回答者を、得られたものの大きさで4つに分けると、最大の群が全体の約3割の92人でした。積極的に参加し、つながりを得て、危機への対応力が高まったと実感していた人たちです。情報や知識は得られたものの、対応力の高まりまでは感じなかった人も約2割、得られたものが少なかった人も2割弱いました。業種や役職、年代による違いは見られていません。
ただし、回答率は7.1%と低く(依頼の投稿が表示された747人を分母にすると37.6%)、調査時点では訪日観光がすでに回復し、グループへの関心が薄れていた可能性があります。また、測ったのは本人の実感で、売上などの業績ではありません。
危機の前に、業界の外とつながっておく
危機が来てから人脈を広げようとしても間に合わない。この研究は、そう考えがちな私たちに別の見方を示しています。危機そのものが、ふだんは出会わない人同士をつなぐ場を生むこともある。論文の結果から、三つの手がかりが得られます。
業界の外の人と、平時からつながっておく
論文が実務への示唆として挙げるのは、平時から自分と異なる背景を持つ人とつながっておくことです。業種や役職だけでなく、国籍や住む場所、暮らし方の違う人とも。社外の勉強会や業界横断のオンライン会合に、同業者とだけ話して帰る場として出ていないか。この1年に名刺を交わした相手の業種を並べてみると、偏りに気づくことがあります。地方の宿の経営者が、IT企業の担当者や自治体の職員と話す。そうした組み合わせが、危機のときに思わぬ情報をもたらすかもしれません。
参加するなら、見るだけで終わらせない
効果を実感していたのは、投稿やコメント、勉強会への参加が多い人たちでした。登録しただけのグループは、危機のときに頼れる場になりにくいようです。月に一度でも発言する、勉強会で一つ質問する。関わりの深さが、得られるものの差になって表れていました。
得たものを、自分の職場に持ち込む
自由記述には、グループで得た知識やつながりを、外の人に分け直している人がいたと書かれています。論文はこれを今後の課題としていますが、社外で得た話を部内の会議で5分でも共有する習慣は、個人のつながりの効き目を組織に広げる一歩になりそうです。
危機は人を孤立させるだけではありませんでした。ふだん交わらない人同士を、同じ場に集めることもある。そのとき力になったのは、似た者同士の結束より、違う人との緩やかなつながりでした。
記事原案 藤本ゆう子
