熱狂的ファンの育て方 韓国アーティストに学ぶ

熱狂的ファンの育て方 韓国アーティストに学ぶ

顧客をファンに変える価値共創プラットフォーム

企業の持続には熱心なファンが重要です。
慶應義塾大学の山本晶先生と駒澤大学の菅野佐織先生は、論文「顧客のファン深化に向けたブランド・プラットフォーム戦略― Weverseの事例から ―」で韓国のHYBE社によるエンターテインメントアプリのWeverseに注目し、企業と顧客が共に価値を生み出す仕組みを調査しました。調査方法として、運営会社へのインタビューや、アプリの機能分析、公開データなどを組み合わせた質的な事例分析が行われています。その結果、Weverseはアプリ以上の役割を果たし、顧客を積極的なファンへと育てる場となっていることがわかりました。

ばらばらだった顧客体験をひとつに

HYBE社の前身のビッグヒットエンターテインメント社は、BTSとともにブログやSNS、YouTubeなどオンラインメディアを活用してアーティストの素顔を発信していました。ファンとの距離は縮まった一方で、情報、交流、購入が別々のサービスになっていたため、ファンは複数のサービスに登録する手間がかかり、SNS特有の誹謗中傷の不安も抱えていました。こうした分断された顧客体験を一つにまとめるために誕生したのが、Weverseです。Weverseでは、ファン同士の交流、アーティストの投稿やライブ配信の視聴、動画コンテンツの閲覧、グッズ購入までをワンストップで楽しむことができます。

売る場ではなく共創の舞台

Weverseの強みは、機能の多さそのものではなく、ファン、アーティスト、運営企業の相互作用を促す設計にあります。
アーティストは、練習風景や日常の一面、悩みや本音まで含めた自己開示を行います。ファンはそれを受け取るだけでなく、ライブ配信中のコメント、メッセージ、投稿への反応など、リアルタイムに応答します。そして自ら投稿を翻訳したり、考察を加えたり、二次創作を行ったりしながら、その魅力を自発的に広げていきます。つまり、企業が一方的に価値を提供するのではなく、顧客自身が価値創出の担い手になっているのです。
運営側もまた、アーティストやファンの声を取り入れながらサービスを改善します。こうして、アーティスト、ファン、運営の三者が影響を与え合うことで、単なるコンテンツ消費を超えた新しい価値が次々と生まれていきます。
Weverseは、物を売る場所というよりも、価値共創が継続的に起こる舞台となっているのです。

顧客が「スーパーファン」へと深化していく

Weverseは利便性を提供するだけではなく、顧客が企業やブランドに対してより深い愛着と献身を持つようになる、いわばファン深化のプロセスを生み出しています。安全に交流できる場があり、好きなアーティストとの距離が近く感じられ、自分の反応や行動がコミュニティの価値にもつながっていく。こうした体験の積み重ねによって、顧客は単なる購買者から、ブランドを支え、広め、参加し続ける存在へと変化していきます。
しかもWeverseは、競合他社のアーティストも受け入れています。各コミュニティは独立して運営されるため、ブランド間で直接衝突しにくく、ファンは安心して自分の好きな対象を応援できます。
このように、ライバルも含めてプラットフォームを共有することで、利用者にとっての利便性は高まり、運営側にはより広範なマーケティング・インサイトが蓄積されます。その結果、プラットフォーム全体の価値が高まり、ひいては企業にも業界にも利益をもたらす構造ができあがっているのです。

売る力より参加したくなる場づくり

この研究が教えてくれるのは、これからの企業にとって重要なのは、単に良い商品を作って売ることだけではないということです。顧客が安心して関わり、自ら動き、他者にも広めたくなるような場をどう設計するかが、ブランドの強さを左右します。
Weverseの成功は、ファンを増やしたというよりも、顧客が企業やブランドと一緒に価値をつくりたくなる仕組みをつくったところにあります。
モノがあふれ、情報も競争も激しい時代だからこそ、企業に求められるのは「何を売るか」だけではありません。お客様が、そこにいたくなるか。参加したくなるか。応援したくなるか。その設計こそが、これからのブランド戦略の核心なのです。

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