新たな研究領域「ポジティブな逸脱」とは何か

新たな研究領域「ポジティブな逸脱」とは何か

会社をより社会的に望ましい方向に変える「ポジティブな逸脱」

企業の中での人々の活動が、倫理的・社会的に良い方向に逸脱する—ポジティブな逸脱(Positive Deviance)は、21世紀に入ってから経営学の研究対象となりました。かつて逸脱とは基本的に悪いものと捉えられていましたが、その集団の殻を破り、より良い方向に変化するポジティブな種類の逸脱は、組織をよりサステナブルな、社会調和的なものに変えてくれる可能性をもたらします。
日本大学の鈴木由紀子先生の論文「ビジネスにおける Positive Deviance-企業倫理研究の視点から-」は、ポジティブな逸脱という研究分野が21世紀に生まれ、少しずつ育まれている状況を紹介しています。

ポジティブな逸脱研究の萌芽

ポジティブな逸脱現象は、いつ頃から、どのように注目されてきたのでしょうか。もちろんそうした出来事は人類史の中で、無数に、日常的にあったと考えられますが、そこの科学的意義を見出して研究されるようになったのは21世紀頃からです。この社会のいたるところに大小の課題がある中で、その課題に直面した人々が現場で変化を起こすことの重要性の認識が高まり、それがどのように行われているのかが研究されるようになったのです。
その研究対象は、組織的な動きから、個人の行動変容まで様々です。これまでには、発展途上国における小児の栄養不良の改善プロジェクトや、院内感染予防、女性のエンパワーメント、都市のスラム街の保健衛生などが対象となりました。
また、ポジティブな逸脱に関する理論研究も同時期からスタートします。何がポジティブであるかは、社会倫理や文化に強く依存します。
その意味で、ポジティブな逸脱の研究の中では、
1)人類一般の善であることは何かという絶対尺度の問いとともに、
2)その社会の中で美徳であると賞賛されるかどうかという相対性もまた認められながら、
組織の善性に関する研究が行われるようになってきました。

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研究はまだまだ揺籃期にある

ただし、著者の研究の振り返りに基づけば、研究は主としてこの「何が善か」に加え、類似の概念との違い:CSRや、ソーシャルイノベーションとの共通点や相違点、そこに実践者はどれだけの善性に基づく意図があったのかといった定義論が中心であるように見えます。鈴木先生自身は、ポジティブな逸脱の科学的検討において「ポジティブの意味の曖昧性、科学的有効性の有無、また、社会や組織の否定的な状況の無視、逸脱の基準の不明瞭さ(日本経営学会誌 2023 年53巻 本文p.49)」を指摘し、研究分野としての未熟さを指摘しています。
その上で鈴木先生は、「社会にプラスの影響をもたらすこと、逸脱行動をしたプレーヤーが優れた業績を生み出すこと、それが社会的に評価されること」が鍵であり、それが他のプレーヤーの追随を促し、当該産業・領域でメインストリームを形成するようになることが大切であろうと結論づけています。
ポジティブな逸脱をどう実践するのか、それを大きな社会的インパクトに変えるにはどうしたらよいのか、またその効果をどう定量的に評価するのかといった事項は、まだこれから研究が為されるべき段階だと言えます。本分野の、今後の研究の発展に期待です。

記事原案 M.Sumida

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