Netflixの伸長に対し、日本のテレビ局はどう対抗したか
NetflixやAmazon Prime Video などの映像配信プラットフォームが日本にも登場してから、既に10年以上が経とうとしています(Netflix日本事業は2015年から、Amazon Prime Videoは2015年から。※2013年はレンタル・購入サービスの開始年)。 その間、既存のテレビ局は一方的に苦杯を舐めてきたわけではありません。この競争環境変化に対して、大きく分けると2種類のパターンで対策を取ろうとしていました。
立命館大学の土橋力也先生と京都精華大学の富樫佳織先生は、論文「新たなビジネスモデルの参入に対する既存企業の対応戦略」で、日本のテレビ局がどこまでどう対応し、どのような面で不十分であるかを分析する中から、制作と配信を垂直統合しているビジネスモデルではどうしてもジレンマに陥ってしまう可能性があることを指摘しています。
テレビ局がとった2パターンの対応
土橋先生たちは、日本のテレビ局を分析する中で、海外プラットフォーマーへの対応が大きく2パターンに分かれることを見出しました。なお、ここで注目すべきは、すべての企業が海外勢に対抗して自前のプラットフォームを構築していたことです。決して、なす術もなく立ちすくんでいたわけではないのです。そのプラットフォームの運営方針は、大きく2つに分かれました。
・自社プラットフォームへの囲い込み
自社のコンテンツの競争力が高いと考えていた会社、具体的にはフジテレビと日本テレビは、自前コンテンツは自社プラットフォーム限定で提供し、自社プラットフォーム利用を促進しようとした。
・マルチホーミング:複数プラットフォームへの番組提供
TBS、テレビ東京、テレビ朝日は、様々なプラットフォームが登場したことを事業機会ととらえ、自社コンテンツを複数のプラットフォームに提供する「マルチホーミング」戦略を採用しました。
統合型企業のジレンマとは
土橋先生たちは、どちらの戦略が成功であったかの言及を避けつつ、どちらの戦略も対応として十分ではない可能性を指摘しています。制作と配信の両方を持つことで、それぞれに配慮したような戦略になってしまう。垂直統合しているからこその、ジレンマに直面してしまう「統合型企業のジレンマ」があると指摘しているのです。
巨大な予算や制作能力・配給能力をもち、はっきりと新しいビジネスモデルで競争を仕掛けてきた海外勢プラットフォーマーに対し、自分たちの制作の競争力を生かし、それを自前プラットフォームの競争力向上に使おうと考えた局は、テレビ放送の色彩を強く残した自前コンテンツを軸としたプラットフォームを選択しました。こちらでは、閉じたプラットフォームになってしまい、多数の会社と連携した多種多様なコンテンツを取り揃えていくことはできなくなります。
他方で、マルチホーミング戦略を取った場合には、自分たちの作る有力なコンテンツが様々な会社のプラットフォームで展開され、収益性を獲得できると考えたわけですが、こちらの場合だと自社プラットフォームの差別化は難しくなります。
長年事業を続けて、制作と配信とは強く結びついてしまっている以上、このようなジレンマに直面するのは避けがたいとしているのです。
統合型企業のジレンマは、日本の家電メーカーが、テレビ本体事業とそのコア部品であるディスプレイ事業を有しているがゆえに、それぞれの利益を考えてしまって、ディスプレイ専業メーカーが躍進したり、テレビ販売のために他社からディスプレイ調達をすることを辞さなかったプレーヤーに遅れをとってしまったことを指摘した研究でした。同じようなことが、放送局でも起こっているのではないか、と指摘しているのです。
土橋先生たちの指摘は日本企業にとって大変重要な問題です。長年の事業活動で、競争力を構築してきた企業が、それに引っ張られてビジネスモデルの転換に乗り遅れる。その解決策は、本論文の射程外となり、ここでは論じられていませんが、この統合型企業のジレンマの克服のためには、トップからの思い切った決断、痛みを伴う改革が必要不可欠であることは自明です。このような状況に陥ったときに、どうすべきか。よい事例素材として、皆さんもぜひ考えてみてください。
記事原案 東莉子
