独自技術を磨くほど、同業ライバルへのバイアウト・エグジットが起こりやすくなる 米国のデータで実証

独自技術を磨くほど、同業ライバルへのバイアウト・エグジットが起こりやすくなる 米国のデータで実証

他社と似ていない技術を持つ会社が買われる?


技術を狙った買収は、どんな会社がターゲットになり、そして、どんな会社が欲しがるのでしょうか。

これまでのM&A研究は、買収対象企業の研究開発投資や特許の数といった発明のスピードと、買い手との技術の似ている度合いに主眼を置いてきました。これに対しルーヴェン・カトリック大学のサム・アーツ先生らの研究チームは、論文「Technology differentiation, product market rivalry, and M&A transactions」では、経済全体の中でその企業の技術がどれだけ他社と違うかという独自性に着目しました。米国上場企業の30年分のデータから、ユニークな技術を持つ企業ほど買収対象になりやすく、とりわけ同じ商品市場のライバルから狙われやすいことを明らかにしました。

特許の文章から、技術の立ち位置を測る

研究チームは1984〜2015年の米国上場企業について、特許、財務データ、株価、企業間の商品の似ている度合い、M&Aの成約記録を突き合わせました。

特徴は技術の測り方です。従来使われてきた特許の分類コードではなく、特許に書かれた文章そのものに注目しました。縦に会社名、横に技術キーワードを並べたエクセル表を思い浮かべてください。セルには、その会社の特許のうち何%がその語を含むかが入ります。ただし多くの会社が使う一般的な語は重みを下げ、その会社が集中的に使う語は重みを上げます。2社が似ているかどうかは、2社の横一列を突き合わせて、同じ列に同じような数字が立っているかを0〜1で判定します。そして、最も似ている上位1割の会社との平均類似度を1から引いた値が技術の独自性。技術的に一番近い相手ですら似ていない会社ほど、高いスコアになります。
同時に、年次報告書(日本の有価証券報告書に相当)の商品説明文の重なりから市場の近さも測定。技術の近さと市場の近さの相関は0.31と低く、似た技術で違う商品を売る会社も、その逆も多いことがわかります。

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独自技術で買収される確率は、7%から20%へ

買収された会社とされなかった会社をそのまま比べても、差を生んだのが規模なのか独自性なのか切り分けられません。そこで買収された1社ごとに、同じ業界で総資産・売上の伸び・負債比率・ROA・研究開発費比率などが近いそっくりさんの会社を最大5社選び、案件ごとの比較グループ(1299社対6351社)をつくり、独自性の違いだけがどれだけ結果を左右したかを推計しています。

結果、独自性が最も低い企業の買収確率は7%、最も高い企業では20%。下位25%の水準から上位25%の水準に上がるだけでも、13%から17%へ高まりました。

ターゲットは、同じ市場のライバルと技術の近い相手

実際に成立した546件と、起こり得たのに成立しなかった5427件の組み合わせを比較すると、買い手の顔ぶれが見えてきます。 商品市場が近いライバル同士では、ターゲットの独自性が下位25%から上位25%の水準に上がると、成約確率は14.1%から22.7%へ跳ね上がる一方、市場が遠い相手では6.1%から9.3%。技術が近い相手同士でも13.3%から21.3%に高まりますが、遠い相手では6.4%から9.8%にとどまりました。

背景には二つの動機があります。独自技術という武器を持つ競合を、脅威が大きくなる前に取り込むこと。そして技術が近い会社ほど、その価値を見抜き自社に組み込むのが上手だということです。なお買い手側は、独自性が低い企業のほうが買収に動きやすい傾向がうかがえました。

買収する側・される側へのヒント

買収する側にとって、独自技術を持つ企業は魅力的である半面、価値の見極めと統合が難しい相手でもあります。技術的に近い企業ほどその難所を越えやすく、自社が目利きできる範囲を知ることが候補選定の指針になります。近い領域の知的財産を得れば、その領域で開発を進める自由度も広がります。ただし本研究は買収の成立しやすさを扱ったもので、買収後の業績までは検証していません。

買収される側にとっての魅力は、特許数や投資額の積み上げではなく周囲との違いに宿ります。研究チーム自身、独自性を高めることが買収候補としての魅力につながり、買い手候補の特定にも使えると述べています。想定すべき相手は、同じ客を奪い合い、なおかつ技術的に近い企業です。

他社とどう違うかは、競争の話であると同時に、誰かが自社を欲しがる、つまり価値があると判断する理由の話でもあります。この論文から、差別化の意味を捉え直すことができるでしょう。

記事原案 印部有紀

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