会議の前中後の情報制御が取締役会と社長の信頼を構築する

会議の前中後の情報制御が取締役会と社長の信頼を構築する

社長が取締役会との良好な関係を築くには

ステークホルダーとの意見の食い違いは、多くのビジネスパーソンにとって大きな悩みです。特に新しく社長に就任した人はできるだけ自分の裁量で自由に動きたいと考えますが、取締役会は問題が起きないよう、状況をしっかり把握しておきたいから透明性が重要と考えます。この、経営者側が求める自由度と取締役側が求める透明性をどう両立させるかが大きな課題です。

ESSECビジネススクールのサム・ガーグ先生とノースカロライナ大学チャペルヒル校のクリストファー・B・ビンガム先生の研究「Fostering positive CEO-board relationships: Board synchronization skill and relationship cycles in new ventures」では、初めて社長になったリーダーが取締役会と良好な協力関係を築くには、情報を伝えるタイミングと見せ方を、相手の心理に合わせてコントロールするスキルが極めて重要であることが分かりました。

本研究は、ITベンチャー4社を対象に、社長と取締役会の関係構築プロセスを分析した帰納的研究です。社長や取締役らへの計90件のインタビュー、会議観察、資料データなどを用い、複数ケースの比較から共通点や相違点を抽出し、そこから見出される概念を体系化していきました。

伝え方とタイミングがカギとなる:ボード同期スキル


本研究では、このスキルをボード同期スキル(社長が取締役会と歩調を合わせる力)と呼んでいます。取締役会と良好な関係を築く社長は、会議の「前・中・後」の3つのステップで、以下のような戦略的な振る舞いをしていました。

 1.会議の前:あえて事前の直接対話を控え、書面は簡潔に
会議の前に、よかれと思って詳細すぎる情報をぶつけたり、個別に長時間の相談を持ちかけたりするのは逆効果になることがあります。取締役会側にあれこれ細かく口を出す隙(介入の余地)を与えてしまうからです。できる社長は、事前の連絡を簡潔な書面での要点報告に留めます。相手に余計な情報負荷をかけず、まずは自分の裁量(自由度)を確保するためです。

2.会議中:経営チームに発表を任せ、組織の健全性をアピールする
会議の本番では、社長が最初から最後まで一人で説明するのではなく、経営のチームメンバーにそれぞれの領域を発表させます。社長自身は、全体をまとめる司会進行役に徹するのです。現場を常に見ている経営チームメンバーの生の声を直接届けることで、取締役会側に組織が健全に動いているという大きな安心感を与えられます。同時に社長自身も経営チームを率いる頼れるリーダーとしての信頼を獲得できます。

3.会議の後:個別の「1対1のフォロー」で本音を拾う
会議が終わった後が、実は一番の勝負所です。個々の取締役と個別に1対1の対話を行うことで、会議の場では解消しきれなかった細かな懸念を丁寧にフォローし、取締役の満足度を高めるとともに、社長自身の意図や考えをより深く浸透させる貴重な機会となります。

 信頼蓄積と悪循環の分岐点
これらを実行することで、適切な準備とフォローで信頼が蓄積し、経営の自由度が高まります。しかし、コミュニケーションが十分でないと、取締役会の監視の強化を招き、経営の閉塞感と隠ぺいの悪循環に陥ってしまいます。

ボード同期スキルは、単なる対人関係の調整や妥協点を探る交渉術ではありません。組織の成功を見据え、コントロールと透明性のバランスを戦略的に維持しながら、情報の提示時期や形式を時間軸に沿って配置する高度なマネジメント能力といえます。

Reader Reports

この記事を読んだ読者レポート

この記事で読者レポートを投稿

まだ読者レポートはありません。読んで考えたこと、試してわかったこと、活かし方を最初のレポートとして投稿できます。


一般の現場リーダーやミドル層にも応用できるヒント

このボード同期スキルは、単なる世渡り上手な交渉術ではありません。相手が欲しい安心感(透明性)を与えつつ、リーダーの自分が欲しい動きやすさ(裁量)を戦略的に手に入れるための、高度なコミュニケーション技術です。

本研究の主な調査対象はスタートアップの経営層と取締役会ですが、このアプローチの本質は、会社のトップ層だけに必要なものではありません。現場に近いところで働くミドルマネージャーや現場リーダーにとっても、上司やステークホルダーを巻き込み、チームメンバーと仕事をスムーズに進めていくための強力な応用武器になり得ます。

例えば、一般企業の意思決定の場や、上司(ステークホルダー)を巻き込んだプロジェクト進行にも、この「前・中・後」の情報制御の考え方を活かすことができます。

 会議(提案)の前: 必要以上の細かな進捗共有を避けて簡潔な要点報告に留め、上司からの細かな口出し(介入)を未然に防ぐことで、自分のプロジェクト推進における裁量を確保する。

会議(提案)の中: 実務を担うプロジェクトメンバーに具体的な領域の説明を任せ、自らは全体の進行役に徹することで、「チームが自律的に機能している」様子を上司に見せて安心感を与え、自らもチームリーダーとしての信頼を得る。

会議(提案)の後: キーパーソンと個別に1対1のフォロー対話を行い、会議で解消できなかった不満や懸念を取り除き、満足度を高めて合意形成を盤石にする。

報告のタイミング、会議での見せ方、その後の個別フォロー。この3つの時間軸を意識したコミュニケーションを、日々の業務や上司との心地よい信頼関係の構築に役立ててみてはいかがでしょうか。

記事原案 新谷志津乃

コメントを残す