型は同じでも、現場の活動は違っていた
コンプライアンスの規程をつくり、委員会を置き、研修を定期的に回している。内部通報の窓口もある。ここまで整えれば、不正は防げるはずだと考えてきました。ところが、同じように型を整えた企業の中から、長年続いた検査不正や品質不正が出てきています。
東京大学大学院の會澤綾子先生は、論文「制度導入のもと多様化する組織活動と不正行為 ― 倫理的指針,制度の普及下における事例考察―」で、制度を整えた企業の中で何が起きていたのかを調べました。
対象は、食品、重工業、流通、精密機器など8社です。2017年4月から2018年11月にかけて、コンプライアンス部門の責任者経験者に聞き取りを行い、うち5社は談合や商品事故、品質不正などの不祥事を経験していました。
制度の普及は速く、経団連の調査では、企業倫理・企業行動指針を策定済みの企業が2003年の79.1%から2008年には97.6%に増えています。規程、委員会、専門部署、通報窓口という型は、8社でもほぼ同じでした。
違っていたのは、型の下で行う活動です。制度づくりが第一段階、新人や監督者への研修が第二段階で、研修は8社すべてが実施。第三段階は、現場が主体になって互いに話し合う小集団活動で、ここまで行っていたのは4社でした。
不祥事のあとの対応も、起きた不正の性質で分かれます。商品事故が起きた企業は、グループ全体の制度を広げる方向へ。談合や隠蔽、不正会計が起きた企業は、悪意のある行為者を想定し、不正を排除する方向へ動きました。ところが、この二つの対応をとった2社で、その後も不正が起きます。取引先も巻き込んだ品質不正と、ある部門で長年続いた検査不正。どちらも上長が知っていた、組織的な行為でした。
共通点は、同じ業種の他社でも起きており、業界内で慣習のように行われていたことです。隠れて少人数でやる行為ではなく、組織内で広く知られていました。検査不正の企業では、先輩から「これはこういうふうにやるんだぞ」と教えられていたといいます。本人たちは職場の規範に従っていたわけで、逸脱しているつもりがない。制度を外れた行為ではなく、制度に埋め込まれた行為だった。だから制度を増やす活動も、悪意のある者を排除する活動も効かなかったと會澤先生は見ています。
この2社が次に始めたのは、現場での話し合いでした。一方は年2回社員が集まり、当時の社員がなぜ不正に手を染めたのかを語り継ぐ場を設けます。もう一方は、過去の報道や顧客の苦情をまとめたビデオを全社員で見る場をつくり、当時を知る定年退職者を語り手に迎えています。
ただし、調べたのは大企業中心の8社で、不正が起きる仕組みには踏み込めていないと、會澤先生自身が限界に挙げています。
防ぎたい不正に合わせて、活動を選ぶ
コンプライアンスを点検するとき、見るのは規程の有無や研修の実施率になりがちです。示されたのは、そこが同じでも現場の活動は企業ごとに違うということでした。以下は、論文の結果から考えられる工夫です。
まず、防ぎたい不正の種類を分けて考えることです。會澤先生が分けたのは、規範から外れていると本人にも明らかな不正と、職場で当たり前になっていて本人が逸脱と思っていない不正でした。前者には罰則や通報の仕組みが効き、後者には効きません。自社で起きるとしたらどちらかを考えると、打つ手が変わります。
次に、業界で当たり前になっている手順を疑ってみることです。長く同じやり方を続けている作業について、なぜこの手順なのかを新しく来た人に説明できるか。できないなら、一度確かめる価値があります。
そして、現場で話す場をつくることです。講師が話す研修とは別に、現場の人同士が自分たちの作業について話す時間をとる。論文には、法令や社内規程の条文では言い表せない部分があるから、わからないところを話し合う必要があるという担当者の言葉も出てきます。
ただし、こうした場が社内で歓迎されるとは限りません。過去の不祥事を振り返ることには、ここまでやる必要があるのかという反対意見が根強く、縮小の危機に常に直面していると論文は書いています。続けるには、外部の役員や取引先の後押しが働いていました。
規程と委員会をそろえることは、出発点にすぎませんでした。型が同じでも、現場で何をしているかは企業ごとに違う。防ぎたい不正がどんな性質のものかを見きわめて、活動のほうを選び直す。この研究が示していたのは、その順番です。

勉強になりました😊
イイね