ドイツの中小エネルギー77社、売上が伸びたのは実用段階の技術

ドイツの中小エネルギー77社、売上が伸びたのは実用段階の技術

最先端は伸びと負の関係、大手の模倣は関係なし

資金も人も限られる会社が新しい領域に踏み出すとき、売上の伸びと結びついていたのは、最先端の技術でも大手の真似でもありませんでした。すでに実用段階にある技術です。ドイツの中小エネルギー事業者77社を調べた研究の結果です。

広島大学大学院の尾﨑浩一先生は、論文「政策で方向付けされた市場での中小企業の両利きの経営の研究 ― ドイツ・シュタットベルケのデータによる検討―」で、この関係をデータで確かめました。対象はシュタットベルケと呼ばれる、町が出資するエネルギー会社です。ドイツにおよそ1,000社あり、電気、ガス、熱、水道から市民プールまで運営しています。1998年の自由化以降は大手との競争にさらされ、2011年からは国の脱炭素政策に合わせた投資も求められてきました。

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このうち、約100社が属するチューガグループや、業界団体の賞を受けた会社などを中心に113社を選び、有価証券報告書などで2016年から2018年の数字がそろった77社を分析しています。業績の物差しは、この3年間の売上高の年平均成長率です。創業年数、従業員数、資本金の違いは統計的に取り除いています。

取り組みは、既存事業を磨く「深化」と、新しい領域に踏み出す「探索」に分けています。深化は水力発電や水道事業、温水プールなど。探索はさらに三つに分けました。陸上風力やコージェネレーション、スマートグリッドといった実用段階にある技術。海外の権益投資や大学との連携、ベンチャー出資といった大手の定石をなぞる取り組み。そして水素製造やメタネーションなどの最先端技術です。

三つの探索を並べてみると、売上の伸びとの関係はそれぞれ違っていました。正の関係があったのは、実用段階にある技術です。陸上風力、コージェネレーション、スマートグリッドの三つが、いずれも統計的に有意です。陸上風力には77社中39社が参入していました。

一方、大手の定石をなぞる取り組み(海外の権益投資、大学との連携、ベンチャー出資)は、売上の伸びと有意な関係が見られませんでした。最先端技術はむしろ負の関係です。水素やメタネーションに取り組む会社ほど、この3年間の伸びは小さくなっていました。既存事業でも、100年を超える設備がある水力発電は負の関係でした。

尾﨑先生は、最先端技術に参入するには資金やノウハウにある程度の規模が要り、手がけているのは比較的余裕のある会社だろうと述べています。これは結果からの解釈で、測定された事実ではありません。

なお分析は77社、3年間に限られ、事業ごとの業績も取れていないことが、研究の限界として挙げられています。

話題の技術か、大手の真似か、その手前か

新しい領域に予算を振り向けるとき、候補に挙がる案は意外と似てきます。中期経営計画の新規事業の欄を思い出すと、並んでいるのは二種類ではないでしょうか。業界で話題の最先端技術に乗る案と、大手がやって成功した施策を自社でもやる案です。この研究が示すのは、資源の限られた会社にとって、そのどちらも売上の伸びには結びついていなかったということでした。

では何を選ぶか。業種が違っても、見分け方は使えます。手がかりは、技術が実用段階にあるかどうかです。すでに他社が動かしていて、導入の手順も費用もある程度見えている。そうした領域なら、小さな会社でも失敗の幅を読みながら踏み出せます。社内の業務システムでいえば、話題の生成AIを一から自社開発するより、既に使われているクラウドの機能を自社の業務に合わせて組み込むほうが、限られた人員でも回る、という判断に近いものです。製造業なら、研究段階の新素材より、取引先がすでに採用を始めた部材の加工に先に手を伸ばす、という選び方になります。

もう一つ見直したいのは、大手の真似です。大手が成功した施策は、大手の規模と販路があって成り立っています。同じ施策を小さな会社がなぞっても、同じ条件は手に入りません。競合の大手が始めた会員アプリを、顧客数が十分の一の自社で同じ仕様でつくる。そうした判断は、立ち止まる価値があります。

新しいことに踏み出さない選択も、この研究では分が悪いものでした。問われているのは、踏み出すかどうかではなく、どの段階の技術に踏み出すかです。

先頭を走る技術でも、大手の定石でもありませんでした。すでに動いていて、自社の手が届く技術。限られた資源で伸びていたのは、そこに踏み出した会社です。

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