危機から立ち直る組織と、そうでない組織の違いとは?
地震や台風などの自然災害や、新型コロナウイルスのような感染症の流行は観光地に大きな打撃を与えることがあります。このような危機に直面したときに、客足が早く戻る地域もあれば、なかなか回復できない地域もあります。この違いはどこにあるのでしょうか?
東洋大学の栗原剛先生と新庄瑳やか先生の論文「観光需要の集中度と回復力に関する基礎的研究― 近年の地震災害とコロナ禍を対象に ―」では、観光地を支える宿泊客の国籍の集中度に注目し、特定の国籍に偏っている地域と、多様な国・地域からの観光客を受け入れている地域を比較しました。そして、災害や新型コロナウイルス感染症の影響からの回復しやすさ(レジリエンス)との関連性が検証されました。その結果、観光客の国籍が一部に偏らず、多様な市場に分散している地域ほど、危機からの回復力が高い傾向があることがわかりました。つまり、観光地にとってお客様の国籍の多様性は、いざという時の強さにつながる可能性があるのです。
過去の災害とコロナ禍を対象としたデータ分析
この研究では、観光庁の宿泊旅行統計調査の中から、信頼性の高い観光地域づくり法人(以下DMO)のデータを用いて分析を行っています。対象となったのは、2016年以降に発生した熊本地震、鳥取県中部地震、北海道胆振東部地震、そして世界的な危機となった新型コロナウイルス感染症です。
分析のポイントは、大きく2つです。1つ目は、観光地が特定の国籍の観光客にどれくらい依存しているかという集中度です。 2つ目は、危機が起きたあと、観光需要がどれくらい元の水準に戻ったかというレジリエンスです。
観光客の国籍が偏っている地域と多様な国・地域から観光客を受け入れている地域とで、危機からの回復しやすさに違いがあるかどうかを調べたのです。
多様な市場からの需要取り込みが回復の鍵
調査の結果、観光客の国籍の偏り方と危機からの回復しやすさには、一定の関係があることがわかりました。
地震災害の場合は、国内客も含めて宿泊客が特定の国や地域に偏っていない観光地ほど、回復力が高い傾向が見られました。一方、新型コロナウイルス感染症の影響については、国内客を除いた海外客市場において、特定の国籍に依存していない地域ほど、回復しやすい傾向が見られました。たとえば、北海道胆振東部地震の分析対象となったあるDMOでは、日本以外のさまざまな国・地域からの需要を取り込んでいたため、震災後も比較的早く観光客数を回復させています。
先行研究では、外国人観光客の割合が高い地域ほど回復力があるのではないかと考えられてきました。しかし、この研究では、その考え方は十分には支持されませんでした。むしろ大切なのは、特定の国や地域からの観光客に頼りすぎないことです。複数の国・地域から幅広く観光客を受け入れている観光地ほど、災害や感染症のような予期せぬ危機が起きたときにも、ダメージを分散し、回復しやすくなる可能性があるのです。
顧客ポートフォリオでリスク分散
観光客の分散、つまり特定の国や地域に偏らない観光客を取り込むことが、レジリエンスの鍵。観光地のレジリエンスを高めるリスク分散の考え方は、ビジネスにおける顧客ポートフォリオ構築に共通します。
特定の優良顧客や単一市場への過度な依存はビジネスを脆弱にするため、企業は客観的なデータに基づき、最適な顧客の組み合わせ(顧客ポートフォリオ)を意図的に構築することが考えられます。たとえば、企業顧客との取引を行う企業は、業界や大口取引先への集中度を可視化し、市場の多角化を進めることで、集中度の高い顧客層への依存度を抑えることができるかもしれません。
変化の激しい現代において、平時からの市場分散は未来への投資であり、持続可能な事業を進めるための第一歩となります。
記事原案 本多佳子
