災害支援の新たな形 「応援消費」という発想
東京都立大学大学院の會澤 裕貴先生たちチームによる共同研究「応援消費おねがいプロジェクト―能登半島地震における石川県の取り組み」は、2024年に起きた能登半島地震における石川県の取り組みを挙げ、ソーシャル・マーケティングの具体的な実践としての応援消費の重要性や有効性を提示しています。
石川県が応援消費を選んだ理由とは?
これまでの災害支援は寄付やボランティアが中心とされてきましたが、近年は「地域の商品を買う」「観光で訪れる」といった日常の消費行動も支援になるという考え方が広がっています。
東日本大震災以降、応援消費(消費を通じて被災地や組織を支援する行動)は社会に定着しつつあります。
能登半島地震では道路の寸断により、被災地にボランティアが入りづらい状況が続いていました。 一方、北陸新幹線の敦賀延伸が迫る石川県としては、震災対応と同時に観光客を呼び込む情報発信も不可欠となっていました。
こうした背景から、石川県は「消費行動を支援につなげる」応援消費を軸に、復興と地域経済の回復を両立させる戦略を選び取ったのです。
石川県が進めた応援消費の取り組み
震災から約1ヶ月後 、石川県は「応援消費おねがいプロジェクト」を開始し、誰もが参加しやすい仕組みづくりを進めていきました。
象徴となった「JAPAN HEART」ロゴは、発表当初は県内消費を促す「買って応援」などのフレーズとともに公開され、企業や店舗に広く活用されるようになります。 金沢百番街やゴーゴーカレーなど多くの企業が協力し、その動きはSNSでも広がっていきました。
さらに、その後の観光支援期における「北陸応援割」の開始や東京のアンテナショップ移転オープンに合わせ、「旅して応援」などのメッセージも追加。県外からの応援消費も拡大し、被災した酒蔵の酒米を他の酒蔵が醸造する「共同醸造酒」や著名人のPR動画、企業とのコラボ商品など、多様な形で応援消費が全国へと波及していきました。
応援消費がもたらした効果
プロジェクト開始から1年(2025年1月まで)でロゴのダウンロード数は38,000件を超え、メディア露出などによる令和6年度までの広告換算額は2億円以上に達しています。
八重洲いしかわテラスは1年間で来場44万人、売上4.5億円と大きな成果を上げ、石川県の関係人口は前年比で約20倍増となる1,831万人に上り詰めました。
本論文は、行政が「消費=支援」という前向きなメッセージを発信することで、自粛ムードを和らげ、地域経済の回復を後押しできると指摘しています。 応援消費は一時的な支援にとどまらず、人々と地域の新しい関係性を生み、長期的な復興の基盤となる可能性を持つとまとめられています。
応援消費から学ぶ「共感を動かす仕組み」
能登半島地震後の石川県が展開した「応援消費おねがいプロジェクト」は、消費行動そのものを支援につなげるソーシャル・マーケティングの成功例です。 寄付やボランティアのような利他的行動に比べ、日常の購買や来訪は参加ハードルが低く、幅広い層を巻き込める点が特徴です。
石川県はこの“行動のしやすさ”を徹底的に設計し、支援を社会的に正当化するメッセージを提示することで、自粛ムードを転換し、地域経済の回復を後押ししました。
論文の事例を踏まえ、一般のマーケティングに応用できる教訓を解説します 。
ブランド価値を可視化する言葉設計
まず、顧客にどのような行動を促したいのかを整理しましょう。
「購入する」「来訪する」「応援する」など、行動の種類を明確にしたうえで、その行動が社会や地域にどのような価値をもたらすのかを言語化することが重要です。日常的な購買や利用に社会的な意味を付与することで、顧客は「自分の行動が誰かの力になる」と感じ、ブランドへの共感が生まれます。
石川県が「買って応援」「旅して応援」と行動を言語化したように、行動に“意味”を与えるだけでブランドの価値観が浮かび上がります。 行動の意味づけは、顧客の参加ハードルを下げ、商品やサービスに“社会的な理由”を付与する強力な仕組みになります。
行動を広げるチーム設計
次に、社内で「顧客が参加しやすい仕組みとは?」をテーマに対話してみましょう。
石川県がロゴを無料公開し、誰でも使えるプラットフォームにしたように、参加の余白をつくることは行動の広がりを生みます。 部署間で価値観を共有することで、企画や広報の方向性が驚くほどクリアになります。
応援消費は、誰かを思う気持ちを日常の行動に変える仕組みです。石川県の取り組みは、その可能性を私たちに示してくれました。
企業が動けば、社会の空気も変えられる —— その事実を忘れてはいけません。
(なつこ)
