デジタル市場のビジネス戦略
プラットフォームを提供して価値提供をするプラットフォームビジネスが主流となる現代。ビジネス戦略は従来よりも複雑となってきており、新しい視点を持つ必要があります。
早稲田大学の伊藤 憲哉先生らは、論文 「プラットフォーム・ビジネスの競争ダイナミクス:競争ドメインと反応の速さの関係性」において、プラットフォーム市場特有の競争メカニズム、特にプラットフォーム包摂を契機とした企業間の行動と反応速度の動態を明らかにしています。
従来の経営戦略論では、進出する市場や保有する資源の類似性が高い企業同士は、激しい報復リスクを避けるために攻撃的な行動を自制し合う相互自制が働くとされてきました。しかし、強固なネットワーク効果や高いスイッチングコストを背景に勝者総取りが発生しやすいプラットフォーム市場では、異なる戦略論理が働くと著者らは指摘しています。
特に脅威となるのが、他社のプラットフォーム市場へ侵入する「プラットフォーム包摂」という戦略です。これは、自社のサービスに競合のプラットフォームが持つ機能を抱き合わせにして提供することで、共有する顧客基盤をレバレッジし、先行する競合の市場を一気に奪い取る手法を指します。
本論文の調査方法は、ICT業界における7つのプラットフォーム包摂事例(Windows Media Player 対 RealPlayer、Google Android 対 iPhoneなど)から抽出された170の「競争行動-反応」のペアを対象とした実証分析です。生存分析手法の一種であるCox比例ハザードモデルを用いて、競合の機能変更から自社のカウンターリリースまでの日数を測定しました。
分析の結果、狙う顧客層が同じ、かつサービスの技術や仕様が似通っている状況下では、競合が機能追加などの攻撃を多く仕掛けてくるほど、もう一方のプラットフォームの反応速度が劇的に高まることが証明されました。プラットフォーム市場では、利用者が多いほどサービスの価値が高まる仕組み(ネットワーク効果)があり、わずかなユーザー数の差が致命的な格差に繋がるため、企業は自制するのではなく、ユーザーの争奪と防衛のために迅速な応酬と規模拡大戦略を展開せざるを得ないという実態が浮き彫りになりました。
激しいデジタル競争を生き抜くために
新規デジタル事業や既存のデジタルサービスを成長させるためには、本論文で示した伝統的市場とは異なるプラットフォームの競争論理を熟知し、闘い抜かねばなりません。そのために活かせるポイントを3点お伝えします。
1.スピード勝負
デジタル領域やプラットフォーム型のビジネスにおいて、大手同士だからお互いに手の内を探り合って現状維持が続くだろうという甘い予測は通用しません。類似の価値提供を行う競合が現れた場合、一瞬の遅れがユーザーの大量流出とともに、市場が片方に一気に傾きます。競合の機能アップデートを常時監視し、即座にカウンターを打てる開発・運用のスピード体制を構築しておくことが防衛の絶対条件です。
2.プラットフォーム包摂への警戒と活用
自社が特定の機能やサービスで先行していても、OSや既存の巨大プラットフォームを持つ競合が、その機能を抱き合わせにして包摂してくるリスクを常に想定する必要があります。逆に自社が後発として参入を狙う場合は、既存の顧客基盤やコンポーネントを活用し、競合のコア機能を自社サービスに組み込んで一気にユーザーを奪う戦略が有効な武器になります。
3.不必要な消耗戦の回避
もし自社が資金力や規模で劣る場合、アーキテクチャ(プラットフォームが持つ機能や技術的属性の総称)やターゲットが完全に重複するドメインで正面衝突することは避けるべきです。あえて技術設計や提供価値の次元をズラして非対称なドメインに位置取りをすることで、競合の攻撃に過敏に反応して消耗するリスクを下げ、独自の市場セグメントで持続可能なポジションを維持できます。
プラットフォームビジネスにおいて、競合の動きに対する反応速度は、企業の生死を分ける分岐点となります。そのため、自社が置かれた競争ドメインを正確に見極め、スピード感のある戦略的意思決定を実践していきましょう。
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