ミドルが鍵を握る両利き経営のメカニズム:日本企業を対象とした分析

ミドルが鍵を握る両利き経営のメカニズム:日本企業を対象とした分析

両利きの組織を牽引するのはミドル層だった


近年の経営学で注目の概念の一つが両利きの経営です。両利きとは、企業が新しいことに挑戦すること(探索)と、今ある事業の強化(深化)の両方を同時にうまく出来ること。しかし、これを一つの会社組織の中でやることは非常に難しいことが知られています。既存事業の規模や判断基準では新規事業を育てることができないためです。

両利きの経営を実現するための鍵は何か。武蔵野美術大学大学院の朝山絵美先生は、論文「組織の両利き性を促進するミドル・マネジメントの役割とその作用」で、現場に近いミドル層の主体性が、探索と深化を両立させる両利き経営の成功を左右するのだということを明らかにしました。

大企業の経営者とビジネスパーソン300名への調査

この研究では、予備調査として従業員1000人以上の大企業の経営者6名のインタビューを行いました。インタビュー結果をもとに両利き経営を促進する6つの要因(積極的な企業提携活動、文化の醸成、ミドルのビジョン形成、両利きの組織・制度設計、トップによるミドルへの権限付与、トップのビジョン展開)を抽出して因果モデルの仮説を図式化しています。そしてその仮説の妥当性の検証として、様々な業種・役職のビジネスパーソン300名を対象にWebアンケートを実施し、その結果を共分散構造分析という統計手法を用いて分析し、ミドル層の役割が組織にどのように影響しているかを検証しました。

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両利きの経営を生み出すのはミドル層のビジョン形成

ミドル層はトップの決定に対する単なる実行者と見なされがちですが、この研究の結果、ミドル層主導のビジョンの発信が、両利き性の促進につながるというメカニズムが明らかになりました。現場に近いミドル層が主体的に強いビジョンを発信することは、社員のチャレンジを肯定する意識や失敗を肯定する文化を育てます。その結果、多様な価値観を受け入れる企業文化が醸成されます。そうすると、自社に不足するリソースを外部企業との積極的な提携で補完するような動きが活発化します。そして、既存事業の改善と新規事業の実現、つまり組織の両利き性が促進されてゆくのです。

ミドル層の主体性を引き出すトップからの権限付与

しかし、ミドル層が主体的なビジョンを形成するためには、経営トップからのアプローチも不可欠です。この研究から、トップが強いビジョンを外部に展開することに加えて、ミドルに対して思い切った事業権限の付与を行うことが、ミドルの主体性を引き出し、ビジョン形成を強力に後押しすることがわかりました。事業を推進するうえでの十分な裁量権が、ミドルを真のリーダーへと脱皮させるカギとなります。

両利きの経営を現場で推進するには?

両利きの経営は、経営トップだけが考えるものではありません。むしろ、日々の現場を動かしているミドルのリーダーこそが、既存事業を守りながら新しい挑戦を進めるための重要な存在になります。

自分たちは何のためにこの仕事をしているのかを言葉にする
この論文が明らかにしたのは、ミドル層のリーダーが主体的にビジョンを発信することが両利き性を促進するということです。自分たちの事業やチームが、顧客や社会にどのような価値を届けているのか。これからどのような価値を生み出したいのか。それを自分の言葉で整理し、現場のメンバーに繰り返し伝えることが大切です。これが両利き経営への出発点になります。

挑戦して失敗できる雰囲気をつくる
新しい事業や改善活動は、最初からうまくいくとは限りません。そのため、現場に必要なのは失敗を恐れる文化ではなく、本気で考えて挑戦した結果なら、そこから学ぶという文化です。失敗を肯定し、多様な考え方を許容する文化が育ってゆくと、組織の両利き性を発揮できるような土壌がつくられてゆきます。

社内だけで抱え込まず、外の力も使う
新しいことに取り組もうとしても、社内に十分な人材、技術、情報、ノウハウがないことは珍しくありません。そのときに重要なのは、自社にはないから無理と考えるのではなく、外部の企業や専門家、大学、地域団体などと組む発想です。

とはいえ、ミドルが主体性をもって事業活動に貢献するには、経営層からの権限移譲が必須です。十分な権限を与えられることで、ビジョンを部署内で共有し、失敗を恐れない文化を醸成し、自社内で不足するリソースを外部との提携で補完したりすることが可能になるのです。

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