日本の大企業非管理職のキャリア志向は9分類より7因子が好適合

日本の大企業非管理職のキャリア志向は9分類より7因子が好適合

キャリア診断モデルは日本企業にも合ってる?

会社でキャリア診断ツールを使ったことがあるかもしれません。特によく知られているのがキャリア・アンカーです。キャリア・アンカーとは、個人のキャリア形成や選択の際に最も重要で、他に譲ることのできない価値観や欲求のことを指します。提唱者エドガー・シャインによる8因子モデル以降、時代の変化に合わせて4~11因子まで分ける改良モデルが提案され、研究が続けられてきました。

筑波大学の三國左千子先生と立本博文先生は、「キャリア・アンカー 9因子モデルの適合性:段階的モデル改善を用いた誤差共分散の導入による検証」という論文で、キャリア・アンカーモデルの質問票に見られる独特な言い回しなどがデータの歪みを生み出している可能性を指摘し、日本の大企業で働く正規雇用労働者のデータで、既存の9因子モデルよりも日本人向けにより良好な適合を示す7因子モデルを構築しました。

大企業の1,083名データから見えた特徴

三國先生たちがベースとした、Danzigerらによる価値観の9分類(9因子)は以下の通りです。

専門・職能別コンピタンス特定の仕事分野でのスペシャリストとしての能力や技術を最大限に発揮し、その道を極めることに価値を置く志向。
全般管理コンピタンス組織の階段を上って責任ある役職に就き、集団を率いて意思決定を行いながら組織の業績に貢献したいという志向。
自律・独立組織のルールや規制に縛られることなく、自分のペースやスケジュール、裁量で自由に仕事をしたいと願う志向。
保障・安定雇用や収入が完全に維持される安心感を重視し、安定的で将来への心配が少ない職場環境や待遇を求める志向。
起業家性他人の組織に属するよりも、自らのアイデアを具現化し、自分自身の新たなビジネスや会社を興したいという志向。
創造性これまでにない革新的な製品やサービス、新しい仕組みを自分の手でゼロから創り出したいと熱望する志向。
奉仕・社会貢献自分の才能や仕事を通じて他者を支援し、世の中をより良くするなど、人類や社会への寄与を最優先にする志向。
純粋な挑戦解決が極めて困難に見える問題の打開や、厳しい競争での勝利を目指し、常に自分を試し乗り越えようとする志向。
生活様式自身のキャリア形成と、家庭環境やプライベートな関心事とのバランスを上手く保ち、調和を図ることを重視する志向。

三國先生たちは、この9因子が日本の労働者に適合するかどうかを検証するために、従業員300人以上の日本の大企業に正規雇用されている27歳以上の非管理職の社員1,083人 にウェブ上のアンケートを実施しました。得られたデータをもとに、探索的因子分析→確認的因子分析→因子相関の設定→誤差共分散の導入、という4段階の手続きを踏んでモデルを検証しました。因子分析とは、データの奥にある本当の原因を見つけ出す方法です。誤差共分散とは、その原因では説明しきれない、メインとは関係のない隠れたつながりのことです。

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9因子から7因子へ~消えた2つの特性

分析の結果、探索的因子分析からは起業家性が単独の因子として綺麗に抽出された一方、創造性は独立せず、純粋な挑戦と同じグループにまとまってしまいました。最終的に採用可能な水準の適合度に達したのは、探索的因子分析から得られた7因子モデルでした。

シャインによる元々のモデルでは起業家的創造性というひとつの特性だったものを、Danzigerらの先行研究では起業家性(自分の事業を起こしたい)と創造性(新しい製品やアイデアを創り出したい)という2つの独立したタイプに分割し、全体で9タイプとするモデルを提案していました。しかし日本企業のデータでは、起業家性は単独のタイプとしてきれいに当てはまった一方、創造性は単独では成立せず、純粋な挑戦(困難な問題を克服したい)と強く結びつき、挑戦・創造性がひとつの合体したタイプとして収まる結果となったのです。

さらに、9タイプのうち自律・独立(組織に縛られず自由に進めたい)については、今回のデータからは特性そのものが検出されませんでした。調査対象が大企業の会社員に限られ自営業や自由業などの独立事業者を含んでいなかったこと、またモデルのパラメータ数が多く構造が複雑であったことなどが要因として考えられています。

こうした一連の手続きを経て、最終的に採用可能な水準に達した7因子モデルは以下の通りです。

挑戦・創造性
起業家性
保障・安定
全般管理コンピタンス
奉仕・社会貢献
生活様式
専門・職能別コンピタンス

7因子モデルの活用法

改めてこのモデルが何だったのか、どう使うべきかを確認しておきましょう。キャリア・アンカーとは、その人が働くにあたっての基本的な動機です。今回の研究では、現代日本人に当てはまりの良さそうな7パターンの「働く基本的動機」が見つかったことになります。

皆さんはぜひ、まずはこの7因子のうち自分はどれに当てはまるかと、考えてみて下さい。そして、それを最大限に達成できそうな今後のキャリアはどういうものであるべきか、考えてみてもらいたいと思います。これが、キャリア・アンカーの基本的な使い方です。

それを、全社的に、あるいは部門で実施することを通じて、仲間たちのキャラクターや働く理由を知り、一人ひとりに適合したマネジメントやキャリア開発を行っていく。これが、キャリア・アンカーの理論が想定した、マネジメントでの使い方となります。

このモデルはどこまで一般化できる?

ただしこの研究では、単に7因子モデルが優れていると結論づけているわけではありません。今回得られた7因子モデルは、あくまで日本の大企業に勤める正規雇用労働者1,083名という限られた対象において良好な適合を示したにすぎないのです。

自律・独立因子が検出されなかったのも、調査対象に自営業や自由業といった独立事業者が含まれていなかったというデータの制約による可能性が指摘されており、著者らはこのモデルを日本の就業者一般に広げるには、独立事業者を含めた大規模サンプルでの再検証が必要だと明言しています。

また創造性についても、先行研究のように安易に単独の因子として切り出すのではなく、著述家やデザイナー、音楽家といった創造的職業の従事者を念頭に置きながら、創造性はそもそもキャリア・アンカーの一形態として概念的に実在するのかという、より本質的な理論的検討が今後必要であると強調しています。

つまり本研究が示すのは、大企業の会社員というデータだからこそ7因子に収まったのであり、経営層や中小企業、自営業まで調査対象を広げれば、創造性や自律・独立といった因子の扱いは改めて慎重に検証し直す必要がある、という研究の射程と限界を見据えた結論なのです。

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