会社の来期の目標、どのように決めていますか?
会社が今年はいくら儲けたいか、どれくらい売りたいか、どれくらい成長したいか、といった会社が目指す目標を数値化したもの、つまり会社が目指す点数を希求水準といいます。
関西学院大学の鈴木修先生は論文「希求水準の再考:業績予想データを用いたアプローチの可能性」で、実際の企業の業績予想データから目標設定のメカニズムを解き明かしました。
従来の目標設定理論の前提への疑問
企業が目指す目標は、意思決定に大きな影響を与えます。これまでの経営学では、次期の目標は、自社の過去の目標と、実際の実績などを一定の比率で機械的に組み合わせて計算するものと想定されてきました。しかし、この数式のような前提が、人間が意思決定を行う実際の企業の行動と本当に一致しているのかについては、長らく検証されてきませんでした。鈴木先生の論文は、この学術的なギャップに切り込んだものです。
1,100件超の業績予想データを分析
本研究では、東証プライムおよびスタンダードに上場している機械業種企業の2008年から2020年までのデータ(1,101企業・年)を使用して実証分析を行いました。
【去年立てた目標と、去年の実際の結果の間にずれが生じてしまったときに、企業は当期の目標をどう変えるか】
前年度の業績予想値(目標)と、前年度の実績(現実の結果)の、どちらの数字に近づけて作るのかを調べたところ、業績予想値と実績があまりにもかけ離れているほど、更新する予測値をより実績に近い水準で設定していることがわかりました。たとえば、あまりにも大きな失敗があったら、現実の数字に合わせて冷静に目標を引き直すという、柔軟な調整が行われていたということです。
【会社にお金や資源の余裕があるかどうかで目標の立て方が違うかどうか】
お金に余裕のある会社とない会社で、現実の結果をどれくらい目標に反映させているかを調べました。その結果、余裕のない会社ほど現実の結果にとても敏感で、少しでも状況が変わるとすぐに次の目標に反映させようとするということがわかりました。一方、余裕のある会社は現実と多少ズレていても、自分たちの理想やこれまでのペースで目標を立てる傾向が強いことがわかりました。
現実とのズレ具合や、その会社にお金の余裕があるかどうかで、企業は目標を柔軟に変化させていることが明らかになりました。
業績の未達度合いで変わる目標の基準
詳細なデータ解析により、次期のターゲットを選定する際、会社が過去の理想と現実の成果のどちらに比重を置くかを状況次第で柔軟に変化させている実態が見えてきました。たとえば、想定よりも成果が大きく下振れしたら、理想に固執せず実態に即したラインまで目標を再設定します。一方で、未達がわずかな範囲にとどまるならば、安易な下方修正は行わずに当初の高い水準を堅持して再起を図る傾向にあります。特に、リソースや資金の蓄えに乏しいほど、シビアに現実を反映させて調整を行っていました。
この研究の実証分析は日本の機械産業を対象としたものであるため、他業種や小規模な会社にそのまま当てはまるかはさらなる検証を待つ必要があります。しかし、この論文から得られる知見は、企業は当初の目標に縛られずに、状況に応じて柔軟に目標を変えてよいということです。過去の計画に盲従して現実との乖離に目を瞑るのではなく、直近のパフォーマンスを次なる一手を投じるための戦略的なシグナルとして捉え直す。この科学的な知見を武器にしたとき、あなたは次にどんな舵取りを見せるでしょうか。
