オムロンの新規事業創造法のカギは「隔離」と「計画接続」

オムロンの新規事業創造法のカギは「隔離」と「計画接続」

起業家の発想と会社の計画は、敵どうしではなかった

 新規事業の芽を摘むのは、会社の計画と数値管理
イノベーション論でよく聞く話です。では、計画から自由になれば新しい事業は育つのでしょうか。どうやら、そう単純ではないようです。

京都大学の柳淳也先生たちは「大企業の新規事業開発におけるエフェクチュエーションの活用 ― 持続的なBMIプロセスを可能とするイントラプレナーの意思決定と行動 ―」という論文で、オムロンで数々の新規事業を率いた竹林一氏の実践を分析しました。2023年に、2つの新規事業について本人へ計3回、各2時間ほどのインタビューを行い、事業が生まれる過程を丁寧にたどったものです。
この詳細な分析から見えてきたのは、私たちが信じ込んでいる「計画か、自由か」という二者択一を覆す、ある驚くべき実践でした。その中身を見る前に、まずは前提となる言葉の整理から始めましょう。

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 新しい事業づくりで注目される「エフェクチュエーション」とは、目的から逆算して最適な手段を計画する従来の発想(コーゼーション)とは逆に、手元にある手段から「これで何ができるか」を問い、偶然の出会いも味方につけていく起業家的な考え方です。しかし、計画と予測で動く大企業にとって、この2つの思考はまさに「水と油」。だからこそ、イノベーションを起こしたいなら、既存のガチガチな計画管理の縛りをすべて取り払うべきだ、と考えたくなります。

ところが、竹林氏の実践はその二択ではありませんでした。浮かび上がったのは、2つの論理を「短期的には切り離し、長期的にはつなぐ」という二刀流です。

まず事業の初期には、起業家的な試行錯誤を会社の短期的な評価基準からいったん切り離して守ります。竹林氏は製品が固まる前から「大義名分」と呼ぶ世界観を掲げて経営層と社外の共感を集め、反対意見には「やらないことのリスクは誰が取るのか」と問い、成果が出ない時期には社外との関係づくりを先行させて事業の正統性を積み上げました。
健康事業では、医療(メディカル)のMが男性、健康(ウェルネス)のWが女性に見えたという偶然の気づきから30代女性向けサービスを構想し、別件の商談で大型連携を“逆提案”してNTTドコモとの合弁につなげ、4年目に100億円に迫る事業へ育てています。
そして7割方いけると見えた段階で、今度は会社の計画的なプロセスに接続して一気に加速させる。オムロン創業者の立石一真氏に由来する「7:3の原理」です。事業が軌道に乗ると竹林氏は次の組織へ移り、また新たな挑戦を始める。計画は敵ではなく、後半戦の加速装置として使われていました。

新規事業を潰さない「守る」と「つなぐ」の時間差思考

この研究から実務に持ち帰れるのは、「守る時期」と「つなぐ時期」を分ける、という時間差の発想です。

新規事業を立ち上げるとき、最初から本体と同じ数値目標で評価すれば、芽は育つ前に摘まれます。
まずは短期の数字から半ば切り離した実験の場を用意し、試行錯誤を守ること。その際に効くのが、竹林氏の3つの実践です。

・数値計画より先に「この事業がどんな世界を実現するのか」という旗印を言葉にする
・反対意見には「やらないことのリスク」を示し、意思決定の責任の所在を明確にする
・成果が出る前から、社外との連携や外部からの評価を先につくり、社内で戦い続けるための正統性を調達する

一方で、守りっぱなしでは事業は大きくなりません。勝ち筋が見えたら、会社の正式なプロセスに乗せて、組織の力で加速させる。切り離すことと、つなぐこと。相反する2つを時間差で使い分けることが、一度きりで終わらず、新しい事業が生まれ続ける組織への道筋になりそうです。

これは、新規事業の担当者だけの話ではありません。部下の粗削りな提案を前にしたとき、いきなり採算やKPIで斬るのか、それとも「まず小さく試す場」を与えて育ててから、正式な稟議に乗せるのか。日々のマネジメントにも、守る時期とつなぐ時期の使い分けは応用できます。自分のチームのどの案件が今どちらの時期にあるのかを見立てるだけでも、判断の質は変わってくるはずです。

計画か、自由か。
その二択そのものを疑うところから、大企業のイノベーションはもう一度動き出すのかもしれません。

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