スウェーデンに学ぶ 起業生存率80%の理由は「発明者が経営に関与しない」仕組み

スウェーデンに学ぶ 起業生存率80%の理由は「発明者が経営に関与しない」仕組み

発明者は経営しない ― 生存率を支える仕組み

スタートアップ育成の手本はシリコンバレー、とは限りません。北欧の地方都市にある工科大学発の企業は、際立って高い生存率で知られます。その鍵は、意外にも「発明者が経営しないこと」にありました。

法政大学の田路則子先生と九州大学の五十嵐伸吾先生は、論文「スウェーデンの起業家大学から生まれるハイテク・スタートアップ」で、スウェーデン第二の都市ヨーテボリにあるチャルマース工科大学を取り上げ、現地でのヒアリング(約30社)と2社の事例から、その仕組みを描き出しました。米国のスタートアップの6年後の生存確率が36〜51%とされるのに対し、この大学発の企業は、1997年から2005年に創業した企業の80%が2012年時点でも事業を続けていたというデータがあります。

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その中核にあるのが、1997年創設の起業家養成の修士課程です。学生は3人1組のチームを組み、大学の研究室や地元のボルボ、アストラゼネカといった企業から提供される技術の種を選び、発明者に代わって事業化を担います。これは「サロゲート(代理)・アントレプレナー」と呼ばれる型で、発明者は技術顧問などに回り、経営には深入りしません。実際、上場や売却に成功した6社のうち5社は、この代理起業家が経営していました。

高い生存率のからくりは、選抜にもあります。学生チームは丸一年かけて事業案を検証し、見込みの低いプランは法人化の前にふるい落とされます。創業の時点で、計画もチームも鍛えられているのです。法人化後は、大学のベンチャーキャピタル兼インキュベーション組織が常時100社程度に投資し、メンターが毎週進捗を確認します。さらに、地元大企業の元幹部や同族企業のオーナーが出資者や非常勤役員として経営を支え、先輩起業家の経験と人脈が後輩に受け継がれていく。論文はこれを「起業ノウハウのリサイクリング」と紹介しています。

論文での事例2社、腰痛治療の注射薬を開発するStayble Therapeuticsと、インプラント用コーティング剤のPromimicは、いずれも株式公開に至りましたが、その経営は驚くほど小さいものでした。前者は創業から3年間、常勤はCEOひとり。後者は長らく従業員2名で、製造設備を持たず、ライセンス供与や特注品など複線的な収益源を組み合わせてきました。海外VCからの調達は2社ともなく、潤沢な資金で最速を狙うシリコンバレー型とは一線を画します。ただし、これは2社を中心とした事例研究であり、知財が大学ではなく発明者個人に帰属するというスウェーデン特有の制度が背景にある点には留意が必要です。

生存率80%の北欧流に学ぶ、新規事業「生存」の鉄則 

本論文の知見から、実務へのヒントとしてまず注目したいのは、「発明した人が経営もすべき」という思い込みを外すことです。技術の生みの親と、事業の育ての親は、別でもよいのです。論文の著者たちも、発明者の経営への関与は範囲と期間を限定すべきだと提言しています。社内の新規事業でも、発案者にすべてを背負わせるのではなく、若手の推進役と経験豊富な支え役を組み合わせる座組みが応用できます。

次に、事業化前の「淘汰」を設計に組み込むことです。社内コンテストは採択したら終わり、になりがちですが、本論文で紹介されているチャルマース工科大学の仕組み(チャルマース流)は逆で、本格投資の前に丸一年かけて案を検証し、見込みの薄いプランはそこで降りられるようにしていました。撤退を失敗ではなく選抜と位置づければ、挑戦の心理的なハードルも下がります。

そして、リーン(無駄のないスリムな)な体制づくりです。日本もスウェーデン同様、海外からの資金調達が少ない環境にあります。ならば、兼任やパートタイム、専門家のアドバイザー起用で組織を小さく保ち、確実な収益源を複線で持つ。この節約型の経営は、資金の乏しい環境での現実的な戦い方として参考になります。

小さな一歩として、自社の新規事業の座組みを3つの問いで点検してみてください。発案者の役割はどこまでか。経営を担うのは誰か。外部の目利きやメンターは誰か。この3問に答えが用意できていれば、体制の穴はかなり塞がります。逆に、答えが埋まらない問いこそ、次に手当てすべき箇所です。

8割が生き残るのは、天才がいるからではなく、仕組みがあるから。人材と資金が限られた土地の知恵は、日本の現場にこそ響くはずです。

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